フランス建築からデザインのDNAを考える

今回の旅の目的――前半はフランス近代住宅を見るというもの。有名なものではシャローのガラスの家(パリ)、コルビュジエのペイックの住宅(ボルドー)と母の家(スイス)、プルーヴェのナンシーの家(ナンシー)、コールハースのボルドーの家などなど。後半はコルビュジエの建物にプラス、多くの建築家に影響を与えたといわれているプロヴァンスのル・トロネ修道院を訪問することでした。この修道院はエクスアン・プロバンス市内からクルマで90分ほどのル・トロネ村からさらに10分ほど山道を走ったところにある12世紀頃建造されたシトー派の修道院です。

この修道院が多くの人を引きつける理由は、レリーフや壁画、ステンドグラスといった教会お決まりの装飾を一切排除した究極の純粋空間です。その純粋さが、光と影、静寂と自然の音(鳥のさえずり、風のそよぎ)、光による暖と影の涼などなど、人の身体感覚を研ぎ澄まさせて日頃は感知することができない四次元の世界を体感させてくれるところにあるのでしょう。修道院はファサードから教会、集会場、回廊(これが特に有名)、ワインやオリーブを製造していたセラーなど、当時の佇まいを残しています。一時期は廃れていたものを19世紀後半から修復と改築工事は行われ、現在はベツレヘムからやってきた尼僧が暮らし、日々の宗教行事を取り仕切っています。

そして、かつてラ・トゥーレット修道院の設計を任されたル・コルビュジエもこの修道院を訪れたそうです。ル・トロネ修道院はプロヴァンス産の赤みがかった粗い石を、ラ・トゥーレットは粗いコンクリートと、それぞれ時代に沿った異なる材料を使いながら、素材のもつ圧倒的な重量感、純粋形態がもたらす力強さ、そして光と影がもたらす陰翳、そして静けさ……。ここに時代や様式を超えて生き続ける空間デザインの遺伝子を感じてしまうのは、私だけではないでしょう。そしてこの系譜は「光の教会」など、常に建築の光と影を追い求めている安藤忠雄さんの建築までに及んでいるのではないでしょか。

……とは言え、今やプロバンスの三姉妹(セナンク修道院、シルヴァカンヌ修道院)と称えられ、この地方の一大観光スポットとなったル・トロネ修道院で静寂を得るためには、相当強い意思とイマジネーションを必要とします。たまたま訪れた日が日曜であったのがまずかったのかもしれません。次に訪れることがあれば、普通の日、冬あたりが良いかも。

建築は時間によってその表情を変えるもの。駆け足ではなく、最低1日は時間を取る――本当はそんな訪問が理想的なのだと痛感した旅でした。

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