8人のクリエイターによる遊びの提案  その2

「8人のクリエイターが遊ぶ-CONSTRUCTION TOY-遊具展」の作品紹介の続きです。

今、大人たちの間でも話題になっているのが、磁石を使った遊具「マッドマグ」です。マッドマグは韓国のジムワールド社の遊具で、長短2種類のマグネットバーと金属ボールを自由に接続して、四角推や立方体などの基本形態が造形でき、さらにこれらを重ねていくことによって分子構造や複雑な構造物も作ることができるというものです。「マッドマグ」にチャレンジしてくれたのは、韓亜由美さん(ランドスケープアーキテクト)と山中俊治さん(インダストリアルデザイナー)のお2人。

韓さんは、「マッドマグは建築物や多面体などのしっかりした構造物を作るのに適した遊具だけれども、私はその性格を逆手にとって、布地やランドスープのような柔らかで有機的な曲線や曲面を作ってみたい」というアイデアから出発。試行錯誤の結果、30個のステンレスボックスの中に「菌が増殖するイメージ」を連続性ある造形物として創作。ステンレスボックスは鏡のような効果を作り、まるで万華鏡のような不思議で美しく、有機的なオブジェとなりました。

山中さんは、「日頃から最先端技術にどんな形や機能を持たせるか」という発想のデザインワークが多く、今回も「自己増殖するマッドマグ」をコンピュータソフトで再現、その完成形として円状のオブジェを制作してくれました。そのソフトは「Magrid」と名づけられ、まさに科学好きな大人たちの遊びのイマジネーションを限りなく広げてくれる提案でした。

最後の遊具はドイツのローレンツ社製の「ボーフィクス」。ネジ、ナット、穴あきボードなどの木製パーツで構成されていて、数種類ある穴あきボードにネジやナットを嵌め込んで、平面から立体へ、自由な発想で造形作りが楽しめるというもの。これに挑戦してくれたのが川上元美さん(プロダクトデザイナー)と日比野克彦さん(アーティスト)。

川上さんは独自に穴あきボードを制作し、そのボードをボルトとナットでジョイントして、おもちゃ箱を作ってくれました。「小さい頃、玩具を片付けなさいって、親から言われていました」という記憶から、遊具を使って玩具箱を作ってしまおうという斬新なアイデア。組み合わせ次第では、簡単な棚やテーブルも作ることができ、遊具が家具作りのパーツにもなるという、まさに大人が楽しめる遊びです。

日比野さんはアーティストらしく、自由な発想で数種類のオブジェを制作。但し、発想の根底には、ボーフィクスの同じパーツをある規則を持って組み合わせていくことで出来上がったオブジェは、見る側の視点によってさまざまなイメージとして捉えられるという、いかにもアーティストらしい試みでした。大人の遊びは「完成させること」「役立てること」といった意味性を求めてしまうのですが、本来の「遊び」とは目的のない、プロセスに没頭する行為ですから、日比野さんは遊具や遊びの本質にもっとも忠実であったのかもしれません。

子育て中の親に限らず、大人たちが身近に居る子どもたちとある時間を没頭して一緒に遊ぶこと。そんなときに素敵な遊具があれば遊びの時間をより充実したものにしてくれるに違いありません。「物より思い出」という広告コピーがありますが、本当にその通りだなあと思います。

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PHOTO : YASUKO SEKI

8人のクリエイターによる遊びの提案  その1

去る3月24日~4月19日までの1カ月弱、松屋銀座のデザインギャラリーで、「8人のクリエイターが遊ぶ-CONSTRUCTION TOY-遊具展」が開催されました。展覧会の趣旨は前回の記事をご参照ください。

さて、本展の企画は、日本のアート界、デザイン界の第一線で活躍している8人のクリエイターに、機能性+デザイン性に優れた4種類のコンストラクショントイ(組み立て遊具)の中から気に入ったものを1点選んでもらって、クリエイターならではの豊かな発想力と経験から、新しい遊び方を発見し提案してもらおうというものでした。そして、出てきたものは今まで遊具のイメージを大きく超えた遊び方でありオブジェで、大人でも楽しめる遊具の可能性を感じさせてくれるものでした。簡単にご紹介しましょう。

まず、「ハマビーズ」という遊具を選んだ五十嵐久枝さん(インテリアデザイナー)、永井一正さん(グラフィックデザイナー)、平田智彦さん(インダストリアルデザイナー)の作品から。

「ハマビーズ」はデンマーク、マルタハニング社の遊具で、カラフルな小さいビーズでさまざまな絵柄を描くことができます。遊び方としてはビーズをボードに嵌めて図柄を描いて、できたらビーズの表面にアイロンをかけて接着させるというもの。

五十嵐さんは、熱で溶けるとくっつくというビーズの性質を応用してまったく違った発想で遊んでくれました。カラフルなビーズをハートの形のケーキ型に入れてオーブンで焼いて、出来上がったハート型の箱に中に電球を入れて可愛らしい照明器具を作ってしまったのです。五十嵐さんによれば「お菓子を作る感覚で照明器具やリビングBOXなどが作れますよ」とのこと、一度親子でチャレンジしてみたい遊びです。

永井さんは子どもを対象とした展覧会ポスターの図柄をハマビーズで再現して、立体感のあるグラフィック表現にリデザイン。照明効果もあってビーズの鮮やかな色彩に陰影が加わった味わい深い作品となりました。

平田さんはビーズを使って大人の絵本作りに挑戦。図柄はデザイナーらしく名車フェラーリをモティーフとしたもの。「ハマビーズを画材に見立てて、家族の思い出のアーカイブを作ってみては?」という提案が込められていました。

さて、「ジョボ・ブロック」を選んだのは佐藤可士和さん(アートディレクター)。

「ジョボ・ブロック」はデンマーク、ジョボインターナショナル社の遊具。カラフルな色彩の三角形・四角形・五角形の3種類のパーツがあり、これらをパッケージの展開図を思い浮かべながら組み立てていくと平面からさまざまな立体物を作れることがこの遊具の魅力です。佐藤さんは、三角、四角、五角形というシンプルな形と美しい色彩のパーツを組み立てて、ランチョンマット、花瓶、コースター、ティッシュボックスなどのテーブルウェア作りを提案。遊具をリビング用品作りのパーツとして使うという発想です。子どもたちが集うパーティなどで、自ら作ったお皿やコースターにお菓子を盛り付ければ、パーティもよりいっそう盛り上がるでしょう。誰もが手軽にチャレンジできるすばらしい楽しみ方の提案でした。

次回、引き続き4人のクリエイターのご提案を紹介します。

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PHOTO : YASUKO SEKI