漢字とアートのコラボレーション

上海で活躍するアーティスト+グラフィックデザイナー+パオスネット・パートナーの張少俊さんが浅草のGallery ef(http://www.tctv.ne.jp/get2-ef/)で個展をしている。張さんを知ったのは約1年ほど前。私がお手伝いしている物学研究会(http://www.k-system.net/butsugaku/)で中国へデザイン視察旅行を企画した折に、中国側のアレンジをいろいろお手配いただいたのがきっかけだった。出会ったときはパオスネット上海の代表という肩書きでご紹介いただいた張さんだったのだけれど、その後、日本の多摩美術大学でグラフィックデザインを学んだデザイナーであり、同時に中国の伝統的な絵画や書をアレンジしたコンテンポラリーアートも手がける作家であることも知った。その張さんの個展が開かれるというので、年末でにぎやかな浅草まで出かけた。

展覧会のタイトルは「関係学」。「陰と陽、男と女、大と小、自然と人間、社会と個人・・・・・中略、世界はすべて関係で成り立っている」とDMには書かれている。会場である「Gallery ef」はユニークなスペース。カフェギャラリーといった感じで、展覧会場はカフェの奥に忽然と現れる「蔵」の中だ。入り口は高さ120センチほどなので、腰をかがめて入らなければならい。けれど入った瞬間、黒漆塗りの床に漆喰の壁、黒光りした梁でできたすばらしい空間の中に張さんの作品は展示されていた。展示されているというよりも空間の一部として溶け込んでしまっている。今回の展覧会で張さんは作品のコンセプトはもちろんのことだけれど、その材料にこだわった。用紙は中国安徽省の手漉きの紙で数百年は保存が利くそうだ。数ある作品の中で特に気に入ったのが写真のもの。反物のような細長い紙の上に、まるで一筆書きのような力強いタッチの墨絵だ。一瞬見ると「書」のようだが、よく見ると絵巻物のように森羅万象が描かれている。日本の絵巻は横に流れるけれど、張さんの作品は上から下へ縦に流れている。張さんによると「漢字はもともと絵文字(表意文字)なので、字とも絵とも言いがたい微妙な領域を表現できる」のだそうだ。これも展覧会のテーマである「関係学」そのものといえるだろう。

張さんの作品と同時に印象に残ったことがあった。浅草という下町にカフェと蔵(ギャラリー)が合体した不思議な場所があり、そこに東京に暮らす様々な人々が集っている。今回は張さんの個展のオープニングということもあり、カフェには中国語、日本語、英語など様々な言語が飛び交っている。六本木ヒルズや丸ビルもおもしろいけれど、普通のところにこんなスペースがたくさんできることも東京を魅力ある街にしてくれる原動力になっているのだろう。

下記、1月18日まで開催しております張少俊さんの展覧会案内となります。

張少俊 絵画展 “関係學 -guan xi xue” 墨絵

・期日: 開催中~ 2004年1月18日(日)
・時間: 11:00~19:00 ※火曜休廊
・会場: ギャラリー・エフ
東京都台東区雷門2-19-18 tel.03-3841-0442

http://www.tctv.ne.jp/get2-ef/

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フランス建築からデザインのDNAを考える

今回の旅の目的――前半はフランス近代住宅を見るというもの。有名なものではシャローのガラスの家(パリ)、コルビュジエのペイックの住宅(ボルドー)と母の家(スイス)、プルーヴェのナンシーの家(ナンシー)、コールハースのボルドーの家などなど。後半はコルビュジエの建物にプラス、多くの建築家に影響を与えたといわれているプロヴァンスのル・トロネ修道院を訪問することでした。この修道院はエクスアン・プロバンス市内からクルマで90分ほどのル・トロネ村からさらに10分ほど山道を走ったところにある12世紀頃建造されたシトー派の修道院です。

この修道院が多くの人を引きつける理由は、レリーフや壁画、ステンドグラスといった教会お決まりの装飾を一切排除した究極の純粋空間です。その純粋さが、光と影、静寂と自然の音(鳥のさえずり、風のそよぎ)、光による暖と影の涼などなど、人の身体感覚を研ぎ澄まさせて日頃は感知することができない四次元の世界を体感させてくれるところにあるのでしょう。修道院はファサードから教会、集会場、回廊(これが特に有名)、ワインやオリーブを製造していたセラーなど、当時の佇まいを残しています。一時期は廃れていたものを19世紀後半から修復と改築工事は行われ、現在はベツレヘムからやってきた尼僧が暮らし、日々の宗教行事を取り仕切っています。

そして、かつてラ・トゥーレット修道院の設計を任されたル・コルビュジエもこの修道院を訪れたそうです。ル・トロネ修道院はプロヴァンス産の赤みがかった粗い石を、ラ・トゥーレットは粗いコンクリートと、それぞれ時代に沿った異なる材料を使いながら、素材のもつ圧倒的な重量感、純粋形態がもたらす力強さ、そして光と影がもたらす陰翳、そして静けさ……。ここに時代や様式を超えて生き続ける空間デザインの遺伝子を感じてしまうのは、私だけではないでしょう。そしてこの系譜は「光の教会」など、常に建築の光と影を追い求めている安藤忠雄さんの建築までに及んでいるのではないでしょか。

……とは言え、今やプロバンスの三姉妹(セナンク修道院、シルヴァカンヌ修道院)と称えられ、この地方の一大観光スポットとなったル・トロネ修道院で静寂を得るためには、相当強い意思とイマジネーションを必要とします。たまたま訪れた日が日曜であったのがまずかったのかもしれません。次に訪れることがあれば、普通の日、冬あたりが良いかも。

建築は時間によってその表情を変えるもの。駆け足ではなく、最低1日は時間を取る――本当はそんな訪問が理想的なのだと痛感した旅でした。

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ル・コルビュジエの建築に泊まる2

ラ・トゥーレット修道院

リヨン市内からクルマで1時間弱、いかにもフランスといった豊かな丘陵地の一画にコルビュジエの代表作といわれるラ・トゥーレット修道院はあります。ここもかつての僧房の一部を宿泊施設として転用しています。僧房ですから部屋は簡素そのもの。簡単な洗面台、ベッド、収納、机は室内備わっていて、シャワーとトイレは共有です。言うなればユースホステルの名建築版といったところでしょうか。

とは言え、朝、昼、夜の3食付きで一人45ユーロは破格の料金といえるでしょう。こちらもダイニングや集会場などの社交(修道院でこの言葉は適切でないでしょう)の場は西側を向いており、夕食時、広々とした丘陵に沈む夕焼けは言葉で表現できないほどの美しさ。夕食前にはドミニク派の修道士が10数人ほどが教会に集まって祈りの歌を捧げます。キリスト教にも宗教音楽にも詳しくありませんが、コンクリートの巨大な空間に男性の力強くも澄んだ声が幾重にも反響し、まさに天上に登って行くようです。

食事は12人がけのテーブルに自由に着席し、大皿に盛られた料理を取り分けながらいただきます。私たちが泊まったときのメニューは、夕食はパン、飲みやすい軽めのワイン、にんじんサラダ、マカロニグラタン、数種類のフルーツ、朝食はパン、オレンジジュース、ミルク、バターやジャム、コーヒー、ホットチョコレートを自由に取り分けるというものでした。昼食はいただき損ねてしまったのですが、長期の滞在者に尋ねたところ肉料理が出るそうで、多分3食中のメインが昼食なのでしょう。

さて、この建物は100の僧房、図書館、食堂、教会からなっていています。外見はコンクリートの圧倒的な素材感と大胆な形態から、ある種の威圧感を感じてしまいますが、中に入ると中庭を囲む回廊形式がある伝統的な修道院のプランを踏襲しています。まさに修道院建築という遺伝子を受け継いだ近代建築なのです。それ以外にもコルビュジエならではのアイデアが随所に点在し、それままさに近代建築の「百科辞典」です。

静かな部屋で読書したり、森に囲まれた田園を散策したり、時間と光によって様々な表情を見せる建物を探索し、ゆっくりとした時間を過ごしたいそんなラ・トゥーレット修道院でした。

連絡先:Couvent de La Tourette
BP 105 Eveux 69591 L’Arbresle cedex
Reception : tel 33 (0)4 74 26 79 99
Culture@couventlatourette.com

www.couventlatourette.com

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ル・コルビュジエの建築に泊まる

最近、巷の雑誌では「デザイナーズホテル」がたびたび特集されます。デザイン好きであれば、有名デザイナーが手掛けた素敵な空間でゆっくり寛ぎたいと考えますよね。でも、もう1歩踏み込んで名建築に泊まるというのはどうなのでしょう? 例えば、スペイン政府が力を注いでいる「パラド-ル」は、アルハンブラ宮殿など歴史的建造物の一部をホテルに変えて手軽な料金で泊まれるというものなどです。

前置きが長くなりましたが、近代建築の父とも言われるル・コルビュジエの建築に宿泊できることをご存知でしょうか? 今回の旅では幸いにもル・コルビュジエのユニテ(仏・マルセイユ)とラ・トゥーレット修道院(仏・リヨン郊外)に宿泊するチャンスを得ましたので、そのときの体験談を簡単にご紹介しましょう。

ユニテ(仏・マルセイユ)

マルセイユ・ユニテの特徴はなんといっても長さ165メートル、高さ56メートルという巨大な建物を太いピロティが持ち上げた大胆で力強い建築デザインです。その中に300以上の住戸と複数の商店やオフィスがあり、また屋上は庭園となっていて子ども用プールやコミュニティスペースがもうけられています。

この中に「ル・コルビュジエ」という名のホテルがあって、住宅スペースの一部が宿泊施設に転用されています。中には竣工当時のままに、ペリアンのシステムキッチンが備わった部屋もあります。(このペリアンのシステムキッチンはポンピドゥーセンター内の近代美術館に展示してあります。)ユニテは中央の廊下を挟んで地中海側とプロバンスの山地側の両サイドに部屋があり、海側の部屋のテラスからは美しい地中海が一望できます。ホテルは2つ星クラスなので「ゴージャス」とは程遠いのですが、テラスと部屋を隔てる窓が全開するので開放感は抜群です。フロント横にあるフレンチ・フィフティーズなカフェバーからも地中海が一望でき、コルビュジェの建築に居るんだという満足感とともに、地中海の美しい風景(夕焼けはすばらしい!)を臨みながら幸福な気持ちになります。

これでなんとツインで85ユーロ(1万円くらい)という料金なのですから、大納得!! ホテルのあるフロアは屋内商店街となっていて、小さいスーパーマーケット、パン屋、建築専門の書店、雑貨店などがあります。部屋にはキッチンが備わっているので自炊も可能。

ユニテを訪れる人々(特に建築を愛する人)を幸福な気持ちにさせてくれるのは建築のすばらしさもありますが、ユニテの住人やマルセイユの人々がこの建物をとても愛している様子が伝わってくることです。できた瞬間はピカピカで素敵な建物であっても、だれにも愛されずに痛んでいたり取り壊されることの多い日本にあって、できあがって50年以上の歳月を経ていながら、愛着をもって適切なメインテナンスを施され、今なお近代を代表する集合住宅として機能しているのは嬉しい限りです。

例えばこんな感じです。私たちはクルマでマルセイユ入りしたので、まず最初にユニテの所在を確認する必要がありました。インフォメーションオフィスを訪ね、一番確実だとユニテの写真を見せて所在を尋ねると、スタッフは市内のマップを広げて「ル・コルビュジエだね。簡単さ、この道を上がって右に曲がって一本道さ」(フランス語で多分こう言っていたに違いありません)と説明したくれたのです。つまり彼は「ユニテ」ではなく建築家の名を言っていたのです。地図にもユニテではなく「コルビュジエ」と記載してありました。その後、タクシーに乗っても、レストランに出かけても、「ル・コルビュジエ」と言うと、出会う人のだれもが「そうか、そうか!」と、とても親切に対応してくれたように感じたのはちょっと自意識過剰でしょうか? ユニテはマルセイユ市内からも地下鉄で4駅ほど。1日ノンビリと建築を堪能してみてください。

連絡先:SG HOTEL LE CORBUSIER     280 BLD MICHELET     13008 MARSEILLE
tel : 04 91 16 78 00
fax : 04 91 16 78 28
hotelcorbusier@wanadoo.fr

www.hotellecorbusier.com

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