パリ<4> 国立装飾芸術美術館と国立自然史博物館

TOY展を見るために国立装飾芸術美術館を訪ねると、TOY展よりも大々的にファッションデザイナーのクリスチャン・ラクロワの回顧展が開催されていた。これが目的でなかったので、例の通りサクーッと眺めて歩いたが、その作品量と発想の豊かさ、まさに装飾芸術という名に相応しい手工芸の数々には驚いた。

日本の美意識は引き算だが、フランスの美意識は足し算だ。これだけ足し算しても上品さを失っていないところがラクロワさんの服の魅力なのだろう。 ・・・なんて、考えながらぐるぐる歩き回っていると、偶然デザイン部門に辿り着いた。同美術館の一番端の最上階部分だ。ラクロワさんのゴージャスな展示を見た後に、モダンファニチャーの陳列を見ると、なんだかアッサリしていて物足りない。日本人では倉俣史朗さんの作品だけ、欧米勢に混ざって寂しげに陳列されていた。でも、4層吹き抜けの展示空間が面白かったので、写真を撮ってみた。 子ども関係の仕事を始めてから、自然史博物館や技術博物館なども出来る限り見て回るようにしている。でも、実際に行って見ると、博物館や国によって、陳列のコンセプトやデザインが違っていて、とても興味深い。ミュージアムショップも子ども向けの教材や書籍など、日本にはない楽しいモノがいっぱいある。 パリの自然史博物館はフランス式の庭園を取り巻くように、植物園、鉱物、古生物、動物進化とテーマによって異なる建物にまとめられている。とりあえず動物進化館に入ってみる。外観は何の変哲もないクラシックな建築なのだか、中に入ると地下から5層吹き抜けの大空間に、さまざまな陸、水、空の動物たちの剥製が属性やテーマによって陳列されている。2階は象からねずみまでの動物の大行進が再現されていて、大迫力。1階は水棲動物のコーナーで、まるで魚が横を泳いでいるかのようなリアルな展示になっている。空間も15年前ほどにリニューアルされているそうで、一見の価値あり。上野の博物館も頑張っていると思うけれど、展示規模や種類の多さは遠く及ばない。

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パリ<3> パレ・ド・トーキョー

1937年のパリ万博の際に建てられた「Palais de Tokyo」が、現代美術のギャラリーに生まれ変わったという噂を聞き、訪ねてみた。場所を調べると、セーヌ川を挟んでケ・ブランリー美術館のちょうど真向かい、橋もあって気軽に立ち寄れる。中は、元万博会場だったというガランとしたラフな空間で、余計な手が加わっていないところに好感が持てる。

ちょうどランチタイムだったので、付属のカフェ・レストランで先ずは腹ごしらえ。メニューには東京を意識してか、アジアンテイストとフレンチが融合した料理も含まれる。周りを見渡すと、大笹の葉っぱの円柱がそびえるやたら派手な料理を注文している人が多いので、それにトライしてみた。その中身はカレーで、大皿の中央に笹に包まれたご飯が鎮座ましまし、その周辺にカレー味の肉のソテーがある。食す時には笹の葉を外すのだが、ご飯がバサッとカレーの上に散らばる様子は、個人的にはいただけなかった。でも、休日だったせいもあって家族連れが多く、子どもたちがこの笹のパフォーマンスに歓声をあげる様子を見ていると、小さな幸せを分けてもらったという感じ。

さて、食後、ギャラリーへ移動。当時は「the third mind」という企画展が開催中。レストランは混んでいたが、こちらは人影も疎ら。サクーッと展示作品を眺め、ミュージアムショップに。ショップは東京を意識したものだ。日本のコンビニにあるガラスの冷蔵庫をディスプレイ台に見立て、中に渋谷や裏原宿あたりで売ってそうな蛍光色のグッズが、蛍光灯に煌々と照らし出されている。この人工的なフラット感が、フランス人にとって現代の東京のイメージなのだろうか。 パリを歩いていると、フランス人の日本文化に対する視点が二極化していることを感じる。ひとつは、陶器や漆、生け花、禅(禅は一種のブームのようですね)といった伝統的日本、もう一方は先のミュージアムショップのようなフラットな日本のポップカルチャーだ。でも、どちらも先端的美意識として受け取られているように思う。 そういえば、今回、最近人気のレストランを紹介してもらって出かけてみたが、フランス料理に、わさび、ゆず胡椒、海苔、醤油、ポン酢、味噌、紫蘇などの日本の調味料やハーブがふんだんに盛り込まれていて、フランス料理のイメージがちょっと変わってしまった。それにショップに入ると、いきなり「お寿司好きです」とか「一度、東京に行ったけど、素晴らしかった」とか、私が着ている服に「それとってもすてきね。日本のブランド?」だなんて、スタッフが気軽に声を掛けてきてくれる。こんなこと、10年前にはなかったと思う。これも日本が、製品だけでなく、文化を発信し始めたことに起因しているのだろう。

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パリ<2> ケ・ブランリー美術館

パリの素晴らしいところは、中世から、19世紀後期のオスマン男爵による都市改造をへて、現代に至る歴史的遺産や街並みの美しさもさることながら、未来に向けての都市や文化的な投資が目に見える形で実行され、誰もが公平に楽しむことができることだろう。

新しい美術館ができ、ルーブル、オルセー、オランジュリーといった超有名美術館でさえ、時代に合わせて改築や拡張といったメンテナンスと目配りを怠らない。古きよきモノを残しながら、新しさへのチャレンジを忘れない行動力が、世界中から観光客を惹きつける原動力になっているのだ。・・・ということで、ジャン・ヌーベルが設計、2006年にオープンしたケ・ブランリー美術館を訪ねた。エッフェル塔の袂、セーヌ川に面した素晴らしいロケーション。美術館事体は巨大なレンガ色の竜が舞い降りたかのような斬新な姿だか、セーヌ川からみると透明ガラスを通して、敷地内のダイナミックな植栽はランドスケープがあって、ギリギリのところでパリの景観と調和を保っている。展示物はアフリカ、アジア、中南米などの民族芸術の数々。 外観もユニークだが、内部も今までの美術館とはまったく異なり、自分自身が映画の主人公になって摩訶不思議空間をさまよっているかのような構成だ。エントランスには巨大なガラス製の円柱がある。中にはスチール製の棚に所狭しと作品が陳列されている。たぶん、普通の美術館ではバックヤードに当たる所蔵室を、巨大なガラスの円柱として表に出すことによって、保管そのモノを見せてしまおうという逆転の発想なのだろう。整然と保管されている作品からは、きちんとショーケースに納められスポットライトも当てられた作品とは一味違った印象を受ける。そもそも、ここの展示品そのものが道具や古着やお面といった類のものなので、きちんとショーアップされないと、僻村の倉の中で見捨てられた古民具といったわびしさもたたえている。美術館や博物館にとって、空間や展示手法がいかに重要なのかを改めて考えさせられた。

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