第14回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展 その3 Monditalia

R0013318元造船所のアルセナーレは空間そのものがまさにアート

Monditaliaは、ジャルディーニから徒歩10分ほど、元造船場という広大な建物を使ったアルセナーレで開催されている。こちらもコールハース自らがディレクションし、西洋建築の宝庫であるイタリアの建築・都市が抱える問題を浮き彫りにすることで、今日の建築が置かれている状況を把握しようというものだ。ここではさらに建築ビエンナーレ初の実験的な企画も試みられている。

R0013320 会場には休憩スペースも。

きらびやかなルミナリエに飾られた華麗な入り口を入ると、会場は動線に沿って、ナポリ、ローマ、フィレンツェ、エミリオ・ロマーニャ、ミラノ、アルプスといったように、イタリアの各地域を南から北上するというコンセプトで構成されている。各ゾーンはイタリアの古地図が印刷された半透明の布で仕切られ、その表側にはさまざまな展示が、裏側には各地域を舞台とした名作映画が投影される。(たとえば、南イタリアのゾーンでは、ナポリ湾に浮かぶカプリ島のヴィラ・マルパルテを舞台としたジャン=リュック・ゴダール監督の『軽蔑』などが投影されていたりする)。加えて、ゾーンの間には大小さまざまな仮設スタジオが設置されており、同時多発的にダンス、コンサート、ワークショップなど、多彩なパフォーマンスも実演される。筆者の見学中にもダンスや演劇のワークショップなどが複数実演されていた。それらの演目も何らかのかたちでイタリアの建築や都市とかかわりがあるのだろうか。

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R0013215Monditaliaのエントランス 上  展示と並行して上映される映画 下

さて、コールハースによるイタリアを分析するプロジェクトは41にもおよび、移民、再開発、乱開発、農業問題、都市化といった今日的な建築・都市問題を丁寧に掘り起こしながら、それぞれ工夫の施されたプレゼンとなっている。アルセナーレは、41にも及ぶ展示、その背景となる名作映画、そしてパフォーミングアートと、まさにコンテンツのてんこ盛り状態で、きちんと観ようと思うと丸1日でも足りないだろう。人間の情報処理能力にも限界があって、押し寄せてくる知識と情報の洪水のすべてを受容できないことが悲しい。

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R0013285 会場内で実演されるパフォーマンス 上、移民をテーマにした展示 中2点、ラディカル・ペタゴニーと題されたプロジェクト 下

3時間ほどMonditaliaの洗練を受けて外に出て感じたことは、願わくば、ここに集積された莫大な量のアーカイブを本展終了後も、イタリアのどこかに、Monditalia Museumとして残してほしい。あるいはウェッブか書籍か…。コールハースのことだから、この辺も抜かりないと思うけど・・・。

Photos YASUKO SEKI

 

シュタイナー教育の片鱗に触れる

台風8号が接近する7月8日、シュタイナー教材の輸入販売をしている「おもちゃ箱」が主催するワークショップに参加。午前中は、蜜ろうクレヨンや粘土、水彩絵の具で知られるドイツ・シュットクマー社のピーター・ビシュッタ氏、続いてシロフォンで知られるスウェーデン・マリウス社のシエル・アンダーソン氏のレクチャー。午後は複数のグループに分かれて、水彩、蜜ろう粘土、フェルト工芸、音楽などのワークショップ・プログラムに参加した。

シュトックマー社は「人間は感覚を通して自分を取り巻く世界と関わっている」という認識から、「感覚を磨く」ための道具として、絵の具や蜜ろう粘土などのアート教材を作り続けている。とくに注目したいのは「色」の選定だ。ベースは『ファウスト』の作者として知られるドイツの文学者ゲーテが考案した色彩論「色彩環」を基本にしている。色彩環とは、赤・青・黄の3原色が赤を頂点とした正三角形状に配され、その隙間を赤ー黄、黄色ー青、青ー赤がまじりあう色、つまり順に、橙、緑、紫の3色が緑頂点に逆三角形を作り、その間にさらを6色が埋めていくというもので、現在の色彩論の基にもなった。同社は、子どもたちに対して、まず基本色である3色を置き、その3色から生まれる豊かな色彩の世界の体験を重視している。

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ゲーテの色彩環 上  ワークショップで使った色彩サンプル 中 筆者の作品 下

午後のワークショップではビシュッタ氏がファシリテイターを務め、明暗の違う、赤、黄、緑の6色を使って、大地に生える木を描く。用紙に透明感のある6色の水彩絵の具を置き混じり合わせていくと、豊かな色のシンフォニーを奏でてくれた。絵を好き勝手に描くことも楽しいが、このような実験的な体験もたくさんの発見があって楽しいものだ。

DSCN1397 マイルス社のアンダーソン氏。

シュタイナー教材では、絵具なのどビジュアルアートの教材も充実しているが、シロフォン、ライヤーやキンダーハープなどの楽器も充実している。これらは単独の演奏ももちろん楽しめるが、今回のワークショップでは数人が同時に演奏し合い、互いに共鳴・共感することによって、音楽の可能性を体感する実践も行った。ワークショップを通して感じたことは、人間に備わった感覚(シュタイナーは人間には12の感覚があるといった)で感じ、感じたことを表現すること、その作品を共有することの素晴らしさ。これは子どもだけでなく、現代の大人に対しても大切なメッセージを発してくれているということだった。

Photos/ YASUKO SEKI

 

 

 

第14回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展 その2 建築要素

今回は総合テーマ「ファンダメンタルズ」に加えて、「エレメント・オブ・アーキテクチュア(建築要素)」、「Monditalia」、「近代性の吸収:1914~2014」の3つのお題も提示された。番外編も含めて4回に分けてご紹介しよう。

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「建築要素」は、ジャルディーニのメインエントランスの正面にあるテーマ館が舞台。古今東西から、ドア、床、窓、屋根、扉、外壁、便器といった建築要素が圧倒的な質量で収集され、あるものは解体され、またあるものは貼り付けにされ、またあるものはガラスケースに陳列されといった具合に、これまた斬新な手法で展示されている。内容ももちろんだが、展示デザインとして見るだけでも刺激的だ

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R0013177       床のからベランダのゾーンを見る 上      外壁のゾーン 中        ドアノブのゲート 下

屋根のゾーンには、中国やインドネシアなどの特徴的な屋根に加え、2020年東京オリンピックのために造られる新国立競技場の設計で話題を集める建築家、ザハ・ハディドが世界中にばらまいている3Dデザインによる屋根の模型もガラスケースに鎮座している。新国立競技場では「東京の景観を壊す」、「スケールが大きすぎる」、「競輪用のヘルメットのようだ!」などといろいろ形容されている。7月5日には反対のデモ行進もあった。(詳細は「国立さんを囲む会」)

これらの模型を見る限り、確かにザハさんは、歴史風土とか、土地柄とか、現地の人々の生活などには、ほとんど関心がないようだ。それよりも3Dが生み出す今まで見たことのなかったような斬新な造形を、最先端のテクノロジーで実現することに興味があるのだろうなあと感じる。それを置く場所はローマでも、東京でも、ドバイでも、北京でもどこでもよくて、まるで世界中にばらまかれる工業製品や、マクドナルドのようなグローバルブランドのデザインのよう。ザハというロゴマークが貼り付けられたブランド建築だ。それが彼女のアプローチなのだから、良いとか悪いとかの問題ではない。むしろ、そうした性質の建築家をチョイスした側のスタンスが問われるべきだなんだろう。

R0013174左側が新国立競技場

それにしても、人間が生み出してきた「建築要素」の質量はすごい。最近話題の3Dのイメージングやコピー技術によって、建築要素の差別化、多様化はもっともっと進むだろう。けれどもどんなにデザインが多様になろうとも、建築要素の本質はドア、床、窓、屋根、扉、外壁、便器など少しも変っていない。一長一短では進化できない人の身体や感覚を無視することができないのだから・・・。テーマ館のエントランスには最初の一行は Architecture is a profession trained to put things together, not to take them apart. とある。

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Photos YASUKO SEKI

 

 

 

 

 

 

「国立さんを囲む会」に参加

DSCN12555月22日、国立競技場最後の見学会で。東京体育館と新宿の高層ビル群を臨む

7月5日(土)15:00。「国立さんを囲む会」に参加。http://kokuritsu.sakura.ne.jp/開催趣旨は「手をつないで五重の輪をつくって、国立競技場を囲もう。改修案を検討する前に、国立競技場を解体させない」。その日は雨が降ったり止んだり。出かけるのはおっくうだったが、集合時間の15時には薄日もさし、暑くも寒くもない「手をつないで五重の輪をつくる」のに適した天候となった。

集合場所の明治公園(国立競技場に隣接する公園)に行くと、すでに風船やプラカードを手にした人たちが集合。辺りを見渡すと、居る!居る!!知った人たちが。やはり建築関係者が多いが、霞が関の半原発デモに参加しているような社会的意識の高いシニアも多い。

DSCN1342    手づくりの横断幕も

「久しぶり! 来たんだ!」なんて、知り合いと話しているうちに行進が開始。私は偶然お会いした建築家のYKさんと一緒に歩き始める。国立競技場に沿った道を、警察官の監視の下でゆっくり行進し、4分の3周した辺りで隣の人と手をつなぐようにという指示が。両手をしっかりつなぎ、国立競技場を囲む輪の一部になる。実際には5重どころか1重にもならなかった。けれど、特に大々的なアナウンスをすることもなく、直前まで小雨が降っていたにもかかわらず、これだけの人が集まったのだから、多少なりともメッセージは発信できたのではないか? 最後は明治公園に戻って、手にした風船を大空に。

DSCN1353日本青年館も取り壊しが決まっている。

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DSCN1371風船の紐は80m前後に調整。新国立競技場の高さを実感。

気になったのは、(反原発デモもそうだけど)学生や20代の人たちが少ないこと。反原発や新国立競技場建設反対理由の一つは、「未来に負の遺産を残さない」がある。未来に負の遺産を残されてしまう(?)当人たちは、こうした問題をどう考えているのか。あるいはネットなどで議論されているのだろうか・・・と。デモをしても流れは変わらないかもしれない。が、自分の意思は何かのかたちで表現しておかないと。(でも、私自身も20代の頃は選挙もパスしていたかも・・・)。そこそこの楽しさが溢れた現在、政治や社会に意識が向かないのは仕方がないが、無関心すぎるのはコワイ。両者をつなぐフックが必要だ。

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当日配布されていたパンフレット

photos YASUKO SEKI

 

 

第14回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展 その1

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6月4日~、第14回ベネチア・ビエンナーレのプレビューに行ってきた。今回からスタートが3カ月ほど繰り上がって、11月23日まで約半年間に延長された。注目の総合コミッショナーには、近年の建築動向に大きな影響力を発揮するオランダ人建築家、レム・コールハース氏が就任。建築デザインだけでなく、出版や展覧会など幅広い手法で「建築とは何か?」を問い続けている。

今年の総合テーマは「ファンダメンタルズ(根本的なこと)」。まさに「建築とは何か?」を問うもの。だから展示内容も今までとは一変し、作品主義から研究発表会のよう。ある程度全貌を理解するには1日では足りない。メイン会場はジャルディーニとアルセナーレと2カ所あるが、最低でも1日ずつ、2日は予定しておいた方がよい。詳細は、追って、少しづつ紹介できればと思う。

ベネチアは言わずと知れた世界屈指の観光都市。一般的な都市と隔絶したその様相は、ディズニーランドならぬ「ベネチアランド」のようだ。それに加えて、アート、映画、建築などのビエンナーレはベネチアのさらなる重要な観光資源だ。街中がビエンナーレに活気づき、関連イベントが開催されたり、パラッツォがイリュミネーションされたり、まさに祝祭ムードだ。とは言っても、ベネチアにも普通の生活がある。洗濯物のトンネルをこえると、元造船場を活用しているメイン会場の一つアルセナーレだ。

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水上バスバボレットにもビエンナーレの広告が

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街全体が観光都市であるベネチアでは、日常生活シーンに出会うことはまれ。

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グランカナルにはベネチア貴族の宮殿が。

今ではミュージアムとして誰もが訪れることができる。

そして、夏のベネチアでいつも感心するのが、地中海クルーズ船。今回もベネチアの街を凌駕する圧倒的に巨大なクルーズ船が何隻も停泊し、これまた大量の観光客をベネチアランドにいざなっている。⒑階建てのビルに相当するようなクルーズ船が沈みつつあるベネチアに接触したら…ひとたまりもないだろう。そんな気持ちでクルーズ船の移動を眺めながら、現代のテクノロジーが可能とした巨大さ、大量さの行く末を思わずにいられない。建築とは何か?と同時に、現代文明とは何か?に考えさせてくれるベネチアだ。

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巨大なクルーズ船が何隻も通り過ぎる。異様な光景。

phoyos/Yasuko SEKI