元造船所のアルセナーレは空間そのものがまさにアート
Monditaliaは、ジャルディーニから徒歩10分ほど、元造船場という広大な建物を使ったアルセナーレで開催されている。こちらもコールハース自らがディレクションし、西洋建築の宝庫であるイタリアの建築・都市が抱える問題を浮き彫りにすることで、今日の建築が置かれている状況を把握しようというものだ。ここではさらに建築ビエンナーレ初の実験的な企画も試みられている。
きらびやかなルミナリエに飾られた華麗な入り口を入ると、会場は動線に沿って、ナポリ、ローマ、フィレンツェ、エミリオ・ロマーニャ、ミラノ、アルプスといったように、イタリアの各地域を南から北上するというコンセプトで構成されている。各ゾーンはイタリアの古地図が印刷された半透明の布で仕切られ、その表側にはさまざまな展示が、裏側には各地域を舞台とした名作映画が投影される。(たとえば、南イタリアのゾーンでは、ナポリ湾に浮かぶカプリ島のヴィラ・マルパルテを舞台としたジャン=リュック・ゴダール監督の『軽蔑』などが投影されていたりする)。加えて、ゾーンの間には大小さまざまな仮設スタジオが設置されており、同時多発的にダンス、コンサート、ワークショップなど、多彩なパフォーマンスも実演される。筆者の見学中にもダンスや演劇のワークショップなどが複数実演されていた。それらの演目も何らかのかたちでイタリアの建築や都市とかかわりがあるのだろうか。
Monditaliaのエントランス 上 展示と並行して上映される映画 下
さて、コールハースによるイタリアを分析するプロジェクトは41にもおよび、移民、再開発、乱開発、農業問題、都市化といった今日的な建築・都市問題を丁寧に掘り起こしながら、それぞれ工夫の施されたプレゼンとなっている。アルセナーレは、41にも及ぶ展示、その背景となる名作映画、そしてパフォーミングアートと、まさにコンテンツのてんこ盛り状態で、きちんと観ようと思うと丸1日でも足りないだろう。人間の情報処理能力にも限界があって、押し寄せてくる知識と情報の洪水のすべてを受容できないことが悲しい。
会場内で実演されるパフォーマンス 上、移民をテーマにした展示 中2点、ラディカル・ペタゴニーと題されたプロジェクト 下
3時間ほどMonditaliaの洗練を受けて外に出て感じたことは、願わくば、ここに集積された莫大な量のアーカイブを本展終了後も、イタリアのどこかに、Monditalia Museumとして残してほしい。あるいはウェッブか書籍か…。コールハースのことだから、この辺も抜かりないと思うけど・・・。
Photos YASUKO SEKI