第14回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展 その4 近代性の吸収 1941~2014

 

R0013187現代の巨大クルーズ船がベネチアの街を飲み込む?

「近代性の吸収1941~2014」は、65カ国が参加する各国館共通のテーマだ。各国館はジャルディーニとアルセナーレの2カ所に分散している。ジャルディーニのメインストリートには、フランス、イギリス、ドイツ、アメリカ、北欧など西欧諸国のパビリオンが軒を連ねる中、日本館もある。通常、各国館はそれぞれ独自にテーマを決めて展覧会を制作する。共通テーマが与えられることは異例なことで、これだけでもコールハースの思い入れの大きさを理解できる。

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日本館は、コールハースと数々のプロジェクトを実現させた経歴をもつ、展覧会オーガナイザー、編集者の太田佳代子さんがコミッショナーを務め、早稲田大学教授の中西礼仁さんをディレクターとしたチームで、「In the Real World: 現実のはなし~日本建築の倉から~」と題し、主に70年代の建築をテーマとした展示をおこなった。たとえば、安藤忠雄の住吉の長屋、毛綱毅曠の反住器、伊東豊雄のアルミの家などの建築模型など、藤森照信の建築探偵団、真壁智治のアーバン・フロッタージュ、一木努の建築のカケラのコレクション、その他、70年代の建築メディア、70年代を象徴する建築物の図面などが、まるで倉から掘り起こされたように、一見無造作に展示されている。

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R001348470年代の建築の掘り出し物が 上   図面は有料で紙焼きしてくれる  下

1階のピロティでは、石山和美監督による映画の上映とともに、ワークショップやシンポジウムなどのプログラムが用意され、情報のアップデートが図られる予定だ。現在日本の建築は世界的にも大きな影響力を持っている。その源泉を70年代の建築プロジェクトに探ろうという意欲的な内容だった。実際、日本建築の源流を知りたいという建築関係者、ファンで会場がごった返してた。

R00134751階ではさまざまなイベントが計画されている、丸太の椅子は前回の日本館の置き土産。 下

さて、注目の金獅子賞は日本館のお隣の韓国館が受賞。テーマは「コリアン・ペニンシュラ」。現在南北に分裂している朝鮮半島の建築の100年を振り返るもので、政治的な意味合いも強い。しかしながら同じ民族が分断されているという悲劇的な状況は、建築というフィルターを通してもはっきりを伝わってくる。続く、銀獅子賞は南米チリ。戦後、欧米式の集合住宅の拡大を、プレキャストコンクリートという大量生産を保証する建築工法をテーマに分析している。真っ赤な照明に照らされた空間での展示は、建築の近代性のもつ暴力性を感じさせた。

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R0013351日本館に隣接する韓国館 上  赤い照明が印象的なチリ館は銀獅子賞

最近のビエンナーレは、前回の金獅子賞は伊東豊雄がコミッショナーを務めた日本館、前々回は日本の建築家、石上純也氏が受賞するなど、日本を先頭にした非西洋諸国の台頭が目覚ましい。1914~2014年の100年間の建築においては、世界中が西欧で誕生した近代性を吸収してきた。今後は、グローバルな近代性とローカルな伝統や文化の血が混ざることによって誕生するだろう建築の行方に注目したい。

Photos YASUKO SEKI

 

 

 

「楽園としての芸術」展ーArt as a Heven of Happiness

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10月8日まで東京都美術館で開催される「楽園としての芸術」展(~10月8日まで)のプレビューに行った。本展は最近話題のアウトサイダーアートの一領域として注目されているダウン症の人々の作品展。三重県と東京に拠点を置く「アトリエ・エレマン・プレザン」と鹿児島の「しょうぶ学園」で制作された絵画、立体、生活用品などなど、見ごたえのある作品が展示されている。本展のパンフレットには「制作を通じて心が解き放たれ、その結果生まれたものが、また人の心を揺り動かすという奇跡のようなつながり・・・」と記されているが、まさにその通り。

何より、彼らの作品は、現代人(とくに表現者)をがんじがらめにしている「自我」や「自己主張」から解き放たれた清々しさに溢れている。それはラスコー洞窟に描かれた動物たち、アボリジーの人々が描くパターン図であったり、フランスの郵便配達人が30年以上かけて作り上げたシュヴァルの理想宮、江戸時代の僧円空が彫り続けた仏像にも通じる、無心の表現であり、創造という行為を凝縮している。たとえば色彩の透明感、タッチの軽妙さなど、迷いや逡巡がなく、その純粋さに思わず一歩引いてしまうほどだ。

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けれども、表現の世界で大きな可能性を秘めているダウン症の人々が置かれている状況は、決して良いものではない。今回のような多くの理解者や協力者に恵まれ、アートという自己表現の手段を持ち活動できている人々はほんの一握りだろう。実際、親や兄弟の支えがなければ普通に生活することもままならないのが現状だ。また、新型出生前診断の普及によって、さまざまな出産リスクが事前にわかるようになった結果、「命の選別」などの新たな倫理問題も浮上しつつある。

彼らの作品が社会のしがらみや煩わしささから一線を画している「楽園」であるからこそ、それをいかにして守り、育んでいけるのか・・・そんなことを考えずにはいられない。ヨーロッパ、とくにドイツやイギリスには、シュタイナーの思想から発生したキャンプヒルという活動がある。シュタイナー教材である楽器や遊具の生産などを軸に、精神的不安を持った人とサポートする人々がコミュニティを形成し、永続的に安定した生活を保障する社会活動だ。アトリエ・エレマン・プレゼンが掲げる「ダウンズ・タウン」構想(写真下)が実現されることを願いたい。

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無題

 

Photos/ YASUKO SEKI

 

 

日本一美しい島、大三島の美術館

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伊東建築塾の企画にのって友人3人といざ四国の今治へ。日本屈指の絶景しまなみ海道沿いの大三島で、伊東豊雄建築ミュージアム、岩田健母と子のミュージアムなどを訪ねた。前日7月26日は、丹下健三設計の今治市民会館で開かれた日本文化研究家のアレックス・カーさんと伊東さんのセッションに参加。アレックスさんが長年取り組んでいる日本の民家や風景の再生プロジェクトや、伊東さんの大三島への想いを伺っていたせいか、いろいろな視点から島を見ることができた。

大三島は全国の三島神社の総本社の山祇神社(大山祇神社)があって観光客も多いらしい。最近では、伊東建築ミュージアムなど瀬戸内の自然と調和した小規模な美術館もオープンし、しまなみルートの重要な観光島になっているようだ。昔は、この辺りは瀬戸内の海賊や水軍の拠点も多く比較的裕福だったのだろう、どの家も瓦葺の屋根の立派な建物で、村の佇まいも美しい。開館3年目を迎えた伊東豊雄建築ミュージアムでは、現在「日本一美しい島・大三島をつくろうプロジェクト」が進行していて、メンバーによる島のリサーチ結果がパネルや模型、映像でプレゼンされていて見ごたえがある。さらに、宗方地区の浜辺の近くにある岩田健母と子のミュージアム(伊東さんの設計)は、ただ円形の壁だけというシンプルなコンセプトながら、、岩田さんの彫刻はもちろんのこと大三島の美しさをしみじみと鑑賞させてくれる額縁のような建物で、建築というよりも大きな環境彫刻のようだ。自然に寄り添った感じがいい。

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DSCN1419伊東豊雄建築ミュージアム展示 上 岩田健母と子のミュージアム 下

今治を後にした私たちは友人お勧めの高知のオーベルジュに向かった。高知市内から谷川に沿って山道を40分ばかり進むと、都会人にとってはショッキングな光景が飛び込んできた。それは谷川に今にも崩れ落ちそうな家屋群。そして廃線になってしまったバス停の看板。これを限界集落というのだろうか? 人の気配はない。このような山奥でバスも通らなければ、どうやって生活していくのだろうか? 病気になったら? 台風が直撃したら? 総務省が7月29日に発表した空家率の全国平均は13.5%。アレックスさんの取り組み、伊東さんの大三島プロジェクト、そして全国的な限界集落問題・・・・・・新築至上主義だった日本の土木や建築の在り方も大きな岐路を迎えている・・・。

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・・・と少しまじめなことを考えていたら、友人が高知市内の「ひろめ市場」に連れて行ってくれた。昼間からカツオのたたきをつまみに、陽気にビールや酒を楽しむ人々。彼らに混ざって、こちらも乾杯!! たった3日間だったけれど、1週間にも感じれる充実した旅だった。

 

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DSCN1459ひろめ市場、日本的フードコート?

現在8月4日、四国地方は台風の影響で1000ミリ近い豪雨に見舞われたと報道されている。あの谷川沿いにあった限界集落はどうなっているのだろうか? 大雨のために道が寸断され、孤立してしまっている人々や村も多いだろう。一刻も早い天候の回復を祈るばかりだ。

 

Photos/YASUKO SEKI