対極にある建築見ました<2> アルヴァロ・シザとレム・コールハース

カサ・ダ・ムジカ」を私なりに表現をすると「現代建築のテーマパーク」。建築に関わる方からはお叱りを受けてしまいそうですが、そんな印象を持ちました。

建物の中には大小2つのホール、そして音楽にまつわるさまざまなサービスルームが用意されています。外観は極めて単純な巨大なコンテンポラリーアートのよう。けれども内部はテーマパークのように現代建築の最先端が「これでもか!これでもか!」とてんこ盛り。こう感じるのは、この建物は、基本的に移動スペース(廊下、階段、エスカレーター)は意図的に狭く、そこを通り抜けると、ポルトの街が一望できるホワイエ、ポルトガルの名産アズレージョのタイルで埋め尽くされた休憩室、澄み切った青空を望む屋上、広がりのある空間が次々と展開されているからでしょう。川端康成さん流に表現するならば「狭いエスカレーターを上りきると、そこはポルトを臨むホワイエだった・・・」という風に、狭い空間、広い空間が自在に組み合わさっています。また各空間は、コールハースさんならではの心憎い、素材使いやディテール処理が施されているのですね。目が回るような建築的な仕掛けが組み込まれており、建築のグローバリゼーションのトップランナーたる作品であろうかと思います。

さて、次はシザさんです。シザ作品をすでに見学し終えた建築家の方々のご推薦により、まずは大西洋を臨む絶好のロケーションに建つ、シザさんも設計チームに参加したという初期の作品のレストランでランチをすることにしました。近くには、同じくシザさんによるプール施設もあり、2つセットだそうです。レストランはチームの仕事というだけあって、私が思い描いていたシザさんの作品というよりも、むしろフィンランドの建築家アルバア・アアルト風であるように思いました。でも建物も、料理も、ロケーションも、サービスも最高。また出かけたいなあ。プールは浜辺のランドスケープを上手く生かしたデザイン。万が一と思って水着持参で行きましたが、すでに水が抜かれていて、掃除の人が片づけを始めていました。

その日は、それから、シザも教鞭をとっているポルト建築大学、ポルト近代美術館を見るというハードなプラン。1日に5つもの建物を見るとなると、いくら楽しいと言っても、疲労困憊です。ただ、レストランも、プールも、大学も、美術館も、実にすばらしいロケーションの中にあって、白い彫刻のようなシザのミニマムな建物がすばらしく調和しているのです。空間もコールハースさんとは対極で、穏やかで、練られていて、時間とか時代を超越したような静けさに満ちています。

コールハースさんもシザさんも共に世界的な建築家ではありますが、ここに作り手の在り方の対極を感じたのでした。一人は、世界中を駆け回り、時代の価値や潮流を先取りし、リードする。もう一人はポルトという地方都市で、黙々と自分の世界を掘り下げる。でも、リージョナルであればこそ、逆にそれがグローバルな意味を持ってしまう。良く言われるグローバル/ローカルという話ではありますが、プロダクトや情報のように輸送ができない建築なだけに、こうした対比がより鮮明に伝わってくるわけです。そして、50年、100年という時が流れたとき・・・この対極的な建築は、未来に生きる人たちにどう受け入れられるのだろうか?などとも考えてしまうわけです。少なくとも、シザさんの作品は想像できますが、コールハースのさんのカサ・ダ・ムジカは、私の乏しい想像力を超えています。

そして次の日、ポルトから電車で1時間半、さらにタクシーを乗り継がないと行けない、シザさんの教会を見に行ったのでした。

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対極にある建築見ました<1> アルヴァロ・シザとレム・コールハース

アルヴァロ・シザの建築を見たいという夫に同行して、ユーラシア大陸の最西端の国ポルトガルに出かけた。

はっきり言って、「デザイン見聞」と言う意味では、何の期待もしなかった。でも、何もないからゆっくりできたし、頭の中も空っぽになった。それに、どこも似たり寄ったりのデザインである東京では、決して出会えないような不思議なかたちや、何十年も変わっていないのだろうなと思わせるアールデコ調のカフェがあったりして、ゆっくり寛ぐことができた。ポルトガルでは、朝食からポルトワインやシャンパンが置いてあって、朝、昼、晩、寝酒と酒びたり?の1週間だった。こんな時、お酒が飲めてよかったなあとつくづく思う。

ポルトガルは大航海時代をピークに歴史の表舞台に出ていない。けれども、1543年にポストガル人が種子島に上陸して鉄砲を伝えてから南蛮貿易に至るまで、ポルトガルと日本の関係はとても深い。リスボン市内の美術館にはちゃんと「the Island of rising sun」の部屋、つまり日本の展示室があって、ここには南蛮貿易で持ち込まれた屏風や陶器が並んでいる。命がけの当時の交易を思うと感慨深い。

さて、今回の本命、アルヴァロ・シザは、槇文彦さん、安藤忠雄さんも受賞した建築界のノーベル賞、プリツカー賞も受けた世界的な建築家。但し、活動の場は、首都リスボンではなく、第二の都市ポルトにある。そこで、早々にポルトに移動。ここには、シザの建築に加え、最近竣工したレム・コールハースの「カサ・ダ・ムジカ」というコンサートホールがあり、建築界の話題になっているとのこと。この旅行に出る前に、コールハースの本を出版した友人の瀧口範子さんから「カサ・ダ・ムジカで何か聞いてくれば?」とメッセージを頂戴していましたが、残念ながら滞在中にコンサートはありませんでした。但し、見学ツアーというのがあって参加したところ、偶然ですがリハーサルには立ち会えた。

午前中の10時くらいにカサ・ダ・ムジカに着いて、お茶でもしようかと、中にあるカフェにいったところ、どこかで見た感じの日本人がいました。夫は良く存知あげているという有名な建築家ご夫妻でした。何でも、パリから日帰りで、この建物を見に、わざわざポルトまでいらしたとか・・・。加えて、シザの建築はすでにほとんど全部見終わっていて、いろいろ感想を聞かせてくださいました。私は常々感心してしまうのです。建築家と呼ばれる方々の執念と情熱を。地の果てまでも、僅かな時間を惜しんで建築を見て回る、あの根性。そして、「塀をよじ登っていたら、つかまった」とか「1日1本のバスを逃して、野宿した」とか「空間に見とれて、階段から落ちて怪我をした」とか、数々の武勇伝を聞くに及び、笑いすぎて顔の皺が何本も増えたのです。それと同時に、人生でこれだけ没頭できる対象があるって、なんて幸せなのだろうと感心もしてしまうのです。カサ・ダ・ムジカの見学の最中も、すてきな相棒に出会った夫は水を得た魚のように、某有名建築家と2人で嬉々として、建物を楽しんでいたのでした。

私は・・・というと、ポルトという街で、シザさんとコールハースさんという現代の世界的建築家の対極的な建築空間を体験できて、専門家ではなくても満足できる時間を過ごせたのでした。これが、ロンドンやパリ、東京といった現代建築博物館のような都市であれば、さまざまな空間的な刺激や情報が多すぎて「もうお腹いっぱい!」という感じですが、ポルトのようなヒューマンスケールの街であれば、「腹八分目」といった感じですね。

長い前書きとなりました。詳細は次回に。

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