アルヴァロ・シザの建築を見たいという夫に同行して、ユーラシア大陸の最西端の国ポルトガルに出かけた。
はっきり言って、「デザイン見聞」と言う意味では、何の期待もしなかった。でも、何もないからゆっくりできたし、頭の中も空っぽになった。それに、どこも似たり寄ったりのデザインである東京では、決して出会えないような不思議なかたちや、何十年も変わっていないのだろうなと思わせるアールデコ調のカフェがあったりして、ゆっくり寛ぐことができた。ポルトガルでは、朝食からポルトワインやシャンパンが置いてあって、朝、昼、晩、寝酒と酒びたり?の1週間だった。こんな時、お酒が飲めてよかったなあとつくづく思う。
ポルトガルは大航海時代をピークに歴史の表舞台に出ていない。けれども、1543年にポストガル人が種子島に上陸して鉄砲を伝えてから南蛮貿易に至るまで、ポルトガルと日本の関係はとても深い。リスボン市内の美術館にはちゃんと「the Island of rising sun」の部屋、つまり日本の展示室があって、ここには南蛮貿易で持ち込まれた屏風や陶器が並んでいる。命がけの当時の交易を思うと感慨深い。
さて、今回の本命、アルヴァロ・シザは、槇文彦さん、安藤忠雄さんも受賞した建築界のノーベル賞、プリツカー賞も受けた世界的な建築家。但し、活動の場は、首都リスボンではなく、第二の都市ポルトにある。そこで、早々にポルトに移動。ここには、シザの建築に加え、最近竣工したレム・コールハースの「カサ・ダ・ムジカ」というコンサートホールがあり、建築界の話題になっているとのこと。この旅行に出る前に、コールハースの本を出版した友人の瀧口範子さんから「カサ・ダ・ムジカで何か聞いてくれば?」とメッセージを頂戴していましたが、残念ながら滞在中にコンサートはありませんでした。但し、見学ツアーというのがあって参加したところ、偶然ですがリハーサルには立ち会えた。
午前中の10時くらいにカサ・ダ・ムジカに着いて、お茶でもしようかと、中にあるカフェにいったところ、どこかで見た感じの日本人がいました。夫は良く存知あげているという有名な建築家ご夫妻でした。何でも、パリから日帰りで、この建物を見に、わざわざポルトまでいらしたとか・・・。加えて、シザの建築はすでにほとんど全部見終わっていて、いろいろ感想を聞かせてくださいました。私は常々感心してしまうのです。建築家と呼ばれる方々の執念と情熱を。地の果てまでも、僅かな時間を惜しんで建築を見て回る、あの根性。そして、「塀をよじ登っていたら、つかまった」とか「1日1本のバスを逃して、野宿した」とか「空間に見とれて、階段から落ちて怪我をした」とか、数々の武勇伝を聞くに及び、笑いすぎて顔の皺が何本も増えたのです。それと同時に、人生でこれだけ没頭できる対象があるって、なんて幸せなのだろうと感心もしてしまうのです。カサ・ダ・ムジカの見学の最中も、すてきな相棒に出会った夫は水を得た魚のように、某有名建築家と2人で嬉々として、建物を楽しんでいたのでした。
私は・・・というと、ポルトという街で、シザさんとコールハースさんという現代の世界的建築家の対極的な建築空間を体験できて、専門家ではなくても満足できる時間を過ごせたのでした。これが、ロンドンやパリ、東京といった現代建築博物館のような都市であれば、さまざまな空間的な刺激や情報が多すぎて「もうお腹いっぱい!」という感じですが、ポルトのようなヒューマンスケールの街であれば、「腹八分目」といった感じですね。
長い前書きとなりました。詳細は次回に。