デザインに関わる仕事をしておきながら、最近、個人で行く旅先には「世界遺産」なんて、悠々自適のシニアが行きそうな場所を選んでしまう。それも、辺境の地にその栄華の痕跡を残している古代遺跡とか、なんでこんなところにこんなものを?という、荒唐無稽なモニュメントなど、人間の内なるエネルギーの強さを実感できる世界遺産だ。さらに、そこに辿り着くまでの移動時間や交通の不便さが大きいほど、感動も大きい。やはり、感動は「楽」しては得られないのかな?
さて、この夏は、トルコに行ってきました。
トルコ。特にカッパドキアは、学生時代にバーナード・ルドルフスキーの『驚異の工匠たち―知られざる建築の博物誌』を読んで以来、絶対に行きたい場所のひとつだった。ところがトルコは、国土は日本の約2倍、各都市間の主要交通は長距離バス。また、国中に世界遺産はもちろん魅力的な遺産や都市が点在していて、10日程度ではとても回りきれない。・・・ということで、迷いに迷って、イスタンブール、エフェソス(イズミール)、カッパドキアを厳選。都市間移動は飛行機を使うことにした。
最初の訪問地はイズミール。5000年以上の歴史をもちながら、1919年~のギリシアとの争いで戦禍に会い、現在、街中には歴史的建造物の類はほとんど残っていない。しかし、エーゲ海に面した温暖なトルコ第三の都市だ。
まったく期待していないイズミールだったが、生活都市としてはとても魅力的だった。街は中心部から海岸線に沿って左右に広がり、その水際のほとんどが広々とした公園になっていて、対岸を結ぶ主要交通機関は定期船。晩夏という時期もあっただろうが日暮れ近くなると、市民が家族や友人と海辺にやってきてピクニックに興じる。公園に沿って何十件というレストランやカフェが軒を連ね、夜遅くまで食事を楽しむ。地中海に面してエアーコンディションが普及していないイズミールは、夕方になると気温も下がって快適そのもの。夜の8時頃、地中海に沈む夕日を眺めながらのワインやビール。イズミールの人々はこんな至福な時間を日常的に楽しんでいるのだ。もちろん、街には旅行者立ち入り禁止の、貧しく、それだけに危険な地域もある。しかし、この地域の住民だって、2,30分も歩けば海辺にやって来ることはできる。夕陽を眺めながら、持参したお茶を飲むために料金はいらない。期待薄の街だっただけに、イズミールの日常的な豊かさは心に滲みた。
2日目に、イズミールからクルマで90分ほどのエフェソス遺跡を訪ねる。古代ギリシア・ローマ時代の遺跡でお決まりの屋外大劇場、超有名なケルスス図書館、対岸のエジプトからやってきたクレオパトラが下船して歩いたというアルカディアン通りなどももちろん素晴らしい。大理石に刻まれたギリシア語やラテン語のレリーフ、タイプフェイスの美しさも記憶に残る。
行ってみて驚いたことが2つ。ローマ時代には海に面していたエフェソスだが今は土が堆積し、海岸線は5キロも先になってしまっている。2000年という時の流れは地形を変えるほどの歳月なのだ。もうひとつは、エフェソスの発掘はまだ途中段階で、現在はただの丘に見えるその土の下には、まだまだ華麗な古代遺跡が眠っているらしい。そういえば、マチュピチュ遺跡も発掘が続けられ、年々の遺跡の規模が拡大していると聞いた。