ル・コルビュジエの建築に泊まる2

ラ・トゥーレット修道院

リヨン市内からクルマで1時間弱、いかにもフランスといった豊かな丘陵地の一画にコルビュジエの代表作といわれるラ・トゥーレット修道院はあります。ここもかつての僧房の一部を宿泊施設として転用しています。僧房ですから部屋は簡素そのもの。簡単な洗面台、ベッド、収納、机は室内備わっていて、シャワーとトイレは共有です。言うなればユースホステルの名建築版といったところでしょうか。

とは言え、朝、昼、夜の3食付きで一人45ユーロは破格の料金といえるでしょう。こちらもダイニングや集会場などの社交(修道院でこの言葉は適切でないでしょう)の場は西側を向いており、夕食時、広々とした丘陵に沈む夕焼けは言葉で表現できないほどの美しさ。夕食前にはドミニク派の修道士が10数人ほどが教会に集まって祈りの歌を捧げます。キリスト教にも宗教音楽にも詳しくありませんが、コンクリートの巨大な空間に男性の力強くも澄んだ声が幾重にも反響し、まさに天上に登って行くようです。

食事は12人がけのテーブルに自由に着席し、大皿に盛られた料理を取り分けながらいただきます。私たちが泊まったときのメニューは、夕食はパン、飲みやすい軽めのワイン、にんじんサラダ、マカロニグラタン、数種類のフルーツ、朝食はパン、オレンジジュース、ミルク、バターやジャム、コーヒー、ホットチョコレートを自由に取り分けるというものでした。昼食はいただき損ねてしまったのですが、長期の滞在者に尋ねたところ肉料理が出るそうで、多分3食中のメインが昼食なのでしょう。

さて、この建物は100の僧房、図書館、食堂、教会からなっていています。外見はコンクリートの圧倒的な素材感と大胆な形態から、ある種の威圧感を感じてしまいますが、中に入ると中庭を囲む回廊形式がある伝統的な修道院のプランを踏襲しています。まさに修道院建築という遺伝子を受け継いだ近代建築なのです。それ以外にもコルビュジエならではのアイデアが随所に点在し、それままさに近代建築の「百科辞典」です。

静かな部屋で読書したり、森に囲まれた田園を散策したり、時間と光によって様々な表情を見せる建物を探索し、ゆっくりとした時間を過ごしたいそんなラ・トゥーレット修道院でした。

連絡先:Couvent de La Tourette
BP 105 Eveux 69591 L’Arbresle cedex
Reception : tel 33 (0)4 74 26 79 99
Culture@couventlatourette.com

www.couventlatourette.com

08outside 09room 10inside 11inside 12inside

ル・コルビュジエの建築に泊まる

最近、巷の雑誌では「デザイナーズホテル」がたびたび特集されます。デザイン好きであれば、有名デザイナーが手掛けた素敵な空間でゆっくり寛ぎたいと考えますよね。でも、もう1歩踏み込んで名建築に泊まるというのはどうなのでしょう? 例えば、スペイン政府が力を注いでいる「パラド-ル」は、アルハンブラ宮殿など歴史的建造物の一部をホテルに変えて手軽な料金で泊まれるというものなどです。

前置きが長くなりましたが、近代建築の父とも言われるル・コルビュジエの建築に宿泊できることをご存知でしょうか? 今回の旅では幸いにもル・コルビュジエのユニテ(仏・マルセイユ)とラ・トゥーレット修道院(仏・リヨン郊外)に宿泊するチャンスを得ましたので、そのときの体験談を簡単にご紹介しましょう。

ユニテ(仏・マルセイユ)

マルセイユ・ユニテの特徴はなんといっても長さ165メートル、高さ56メートルという巨大な建物を太いピロティが持ち上げた大胆で力強い建築デザインです。その中に300以上の住戸と複数の商店やオフィスがあり、また屋上は庭園となっていて子ども用プールやコミュニティスペースがもうけられています。

この中に「ル・コルビュジエ」という名のホテルがあって、住宅スペースの一部が宿泊施設に転用されています。中には竣工当時のままに、ペリアンのシステムキッチンが備わった部屋もあります。(このペリアンのシステムキッチンはポンピドゥーセンター内の近代美術館に展示してあります。)ユニテは中央の廊下を挟んで地中海側とプロバンスの山地側の両サイドに部屋があり、海側の部屋のテラスからは美しい地中海が一望できます。ホテルは2つ星クラスなので「ゴージャス」とは程遠いのですが、テラスと部屋を隔てる窓が全開するので開放感は抜群です。フロント横にあるフレンチ・フィフティーズなカフェバーからも地中海が一望でき、コルビュジェの建築に居るんだという満足感とともに、地中海の美しい風景(夕焼けはすばらしい!)を臨みながら幸福な気持ちになります。

これでなんとツインで85ユーロ(1万円くらい)という料金なのですから、大納得!! ホテルのあるフロアは屋内商店街となっていて、小さいスーパーマーケット、パン屋、建築専門の書店、雑貨店などがあります。部屋にはキッチンが備わっているので自炊も可能。

ユニテを訪れる人々(特に建築を愛する人)を幸福な気持ちにさせてくれるのは建築のすばらしさもありますが、ユニテの住人やマルセイユの人々がこの建物をとても愛している様子が伝わってくることです。できた瞬間はピカピカで素敵な建物であっても、だれにも愛されずに痛んでいたり取り壊されることの多い日本にあって、できあがって50年以上の歳月を経ていながら、愛着をもって適切なメインテナンスを施され、今なお近代を代表する集合住宅として機能しているのは嬉しい限りです。

例えばこんな感じです。私たちはクルマでマルセイユ入りしたので、まず最初にユニテの所在を確認する必要がありました。インフォメーションオフィスを訪ね、一番確実だとユニテの写真を見せて所在を尋ねると、スタッフは市内のマップを広げて「ル・コルビュジエだね。簡単さ、この道を上がって右に曲がって一本道さ」(フランス語で多分こう言っていたに違いありません)と説明したくれたのです。つまり彼は「ユニテ」ではなく建築家の名を言っていたのです。地図にもユニテではなく「コルビュジエ」と記載してありました。その後、タクシーに乗っても、レストランに出かけても、「ル・コルビュジエ」と言うと、出会う人のだれもが「そうか、そうか!」と、とても親切に対応してくれたように感じたのはちょっと自意識過剰でしょうか? ユニテはマルセイユ市内からも地下鉄で4駅ほど。1日ノンビリと建築を堪能してみてください。

連絡先:SG HOTEL LE CORBUSIER     280 BLD MICHELET     13008 MARSEILLE
tel : 04 91 16 78 00
fax : 04 91 16 78 28
hotelcorbusier@wanadoo.fr

www.hotellecorbusier.com

01outside 02outside 04room