世界遺産の街 麗江/古城日本人のルーツ?ナシ族の街・麗江を訪ねて<1>

デザイントープの主宰者である黒川雅之さんを団長とした総勢7名で、3月16日~20日まで、中国雲南省の世界文化遺産の街、麗江を訪れました。

今回の旅を案内してくれたのは、麗江周辺に暮らす少数民族ナシ族の文化に詳しい王超鷹さん。王さんはパオスネット上海の責任者として、日中企業のデザイン開発の橋渡しという仕事をしながら、一方で、中国各地の文化、特に文字の研究にも精力的に取り組んでいます。その王さんの最大の研究テーマが、ナシ族のトンパ文化でありトンパ文字なのです。今回の旅は正味3日間という短い期間ながら、王さんという最高の案内人を得たのでした。

麗江は雲南省の北に位置し、四川省とミャンマーにチベットに挟まれたエリア。その歴史は明時代にさかのぼり、西南シルクロードの交易都市として発展したそうです。街はナシ族の聖なる山玉龍雪山に続く渓谷に位置し、街中に清流が流れており、洗濯など水仕事の大切な場となっています。街の周辺、菜の花や早咲きの桜が咲き乱れる風景は、どこか昔の日本の美しい田舎を思わせるのどかなものでした。

麗江の旧市街は「麗江古城」として1996年に世界遺産に登録され、今や一大観光都市としてブレイク寸前といった印象。王さんの話によると「元々交易としとして栄えた麗江の建物は、1階は人々が集うためのオープンスペースであり、住人は2階より上に暮らしていました。今やそのコミュニケーションスペースはお土産物を売る店や観光客相手のカフェやレストランになりました」ということで、雲南省に暮らすさまざまな少数民族の工芸品や料理を楽しめる店舗が軒を連ねています。この小さな街に年間300万人もの観光客が訪れるそうで、新市街地には高層のインターナショナルスタイルのホテルが、大通りの両側に建ち並んでいます。

土産物は布製品、銀や玉に加工を施したアクセサリー、あるいは少数民族たちが使ったアンティーク、雲南名物の雪茶やプーアール茶を売るお茶屋など。布製品は織、染め、刺繍などあらゆる技術があり、その色使いや文様は不思議と南米アンデスに暮らすインカの末裔たちの布製品にも通じるところがあります。私たちの祖先の、アリューシャン列島を渡りユーラシアから北米、そして南米大陸に至る長大な旅の痕跡を見たような気がしました。長い年月を経た今も、美に対するDNAは受け継がれているのでしょうか。

現在の中国は北京、青島、上海、広州など目覚しい発展を遂げる沿岸地域と内陸部である西部地域の経済発展の格差、それにともなう貧富の差という問題が表面化しつつあります。麗江はそんな状況の中で、観光都市として今後目覚しい発展を遂げるに違いありません。ただ、日本人である私たちも世界第2位の経済大国になった反面、失ったものも多かったように、麗江周辺に生きる少数民族の人たちもお金と引き換えに何を失ってしまうのか・・・観光客である自分のことは棚に上げて、心のどこかがチクッと痛むのでした。

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2004上海双年(ヴィエンナーレ)展を訪ねて

11月最後の週末を利用して上海蟹を食べに上海に行ったところ、2004上海双年展(ヴィエンナーレ)の最終日に間に合った。開催場所は市内中心の人民公園内にある上海美術館。近くには中国5000年の文物を集めた上海博物館があり、こちらは超モダンな建築物であるのに対して、美術館の方は地上4階建て1930年代の英国風歴史建築物を改装して使っている。バンド地区やフランス租界など、1920年代、30年代のヨーロッパ風の町並みを多く残す上海市の美術館に相応しい風格あるたたずまいだ。

本年度のテーマは中国語で「映像生存」、英語で「Techniques of the Visible」。世界の作家が集結して、先端の映像技術を駆使した作品から中国古来の伝統的な切り紙まで、多種多様な作品が展示されており、まさに百花繚乱。個人的に一番印象に残ったのは、イスラエルのアーティストによる石版に古代ユダヤ文字を映像で投影するというもの。文字自体が遺伝子の染色体のようにも見えるし、文字が投影されてちょこちょこ動くところから抽象化された人間の影が石の上で踊っているように見えなくもない。

この作品が印象に残ったのには理由がある。5年ほど前、イスラエルが一時平和だったころに10日余り旅行したことがある。そのときにエルサレム郊外のメモリアルパークを訪れた。そこには、第二次世界大戦時に虐殺されたユダヤ人の名前を刻む高さ4,5メートルはありそうな巨大な石板が、数え切れないほど多く迷路のように配置されていた。その石板に刻まれたユダヤ文字の一つ一つは、理不尽に生命を切断されてしまった人たちの生の証明を表しているわけだが、その一部分が何千キロも飛んできてヴィエンナーレの展示場に忽然と現れたように感じたのだった。

さて、展覧会場は最終日、しかも土曜日ということもあって、上海の若者や家族連れでにぎわっていた。会場のだれもがアートに触れながら平和な休日の一時を過ごしている。けれども、ちょっと待て! 何かが少しだけ違っている。それは何だろう? 答えは会場にいる誰もが、写真やビデオを撮りまくっていることだ! 通常、美術館や博物館での撮影は厳禁。カメラを構えようものなら、どこからともなく係員がやってきて「ダメ、ダメ」サインを出してくる。それなのにここでは、我先にとフラッシュをバンバンたきながらほとんど全員が撮影をしている。一応、入り口には撮影禁止の告知も出ているし、係員もあちこちに立っている。・・・という私も思わず写真を撮ってしまったが、心は小さい罪悪感でうずいていたのでした。

それから印象的だったのは、作品紹介のクレジットに作家の出身国ではなく活動都市が記されていたこと。先ほどのイスラエル人アーティストのクレジットは「テルアビブ」と都市名で紹介されていた。現在、アートやデザインの世界では、国という単位よりも都市の方が重要だ。生まれてくる国は選べないけれど、どの都市で生活し、活動するかはその人の意志で選ぶことができる。それにロンドン、パリ、ベルリン、東京、NYとった世界中のメトロポリスは、国という概念を越えて「都市」という単位で競争をしているのだから・・・。この辺に中国文化の中心でありたいという上海市の意気込みが感じ取られ、その気概がなんとも頼もしく感じられたのでした。

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レオナルド・ダ・ヴィンチの生家を訪ねる

9月中旬イタリアに行きました。ローマ、フィレンツェ、ミラノというお決まりコースです。各都市幾度か行っているので名所はすでに確認済みだし、しかも何度でも訪れたいミュージアムはどこも長蛇の列。バチカン美術館もウィッツィ美術館も、ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』も、80年代までは行列もなければ、予約なんて考えられなかったのに・・・、やはり海外旅行はこの20年ほどの間に飛躍的に増加したわけです。そんな今回の旅のトピックは、「レオナルド・ダ・ヴィンチの生家を訪ねる」でありました。

およそ建築やデザインを仕事にする者にとって、ダ・ヴィンチは「神様のような存在」ではないでしょうか。ダ・ヴィンチの信望者の一人である私も当然、生家を訪ねる前にウィッツィ美術館で彼の初期の作品を鑑賞すべきでしょうが、ロッジアにそってエントランスからアルノ川に至る長蛇の列を見て思わず断念。街中をぶらついているとミラノの「レオナルド・ダ・ヴィンチ博物館」の別館のようなギャラリーを発見。レオナルドが構想した飛行機、潜水具、自転車、戦車などなど、現代に通じる数々の技術や道具の基が木製模型とスケッチと共に展示されており、その万能ぶりを再確認したわけです。

そしていよいよ、生家へ。ヴィンチ村はフィレンツェ市内からクルマで90分ほど、トスカーナの丘陵地にあります。小さな村の中心には今はダ・ヴィンチ博物館になっている古城があり、その周辺は12、3世紀の佇まいがそのまま残っています。生家はそこからさらにオリーブ畑の中を30分以上登った高台にあるのです。舗装もされていないオリーブ畑の小道、「ダ・ヴィンチの生家 ⇒」という道標を信じて歩き続けます。

レオナルドの生家は想像以上に魅力的な空間でした。母屋と納屋なのでしょうか、建物は2つ、L字型に配されています。母屋は150平米程度の平屋、大きな暖炉のある部屋を中心に左右に2間、壁も床も天井も装飾なしの石造り。壁は厚味が40センチほどもあり、床は石畳のように凸凹しています。母屋と納屋はブリッジでつながっており、そこに大きな石釜が残っていました。この釜でレオナルドも食したであろうパンが焼かれたのですね。また、生家は丘陵地の突端に建っていて、トスカーナの風景を独り占めしているような場所です。そして耳を澄ませば、鳥の声、風の音、教会の鐘・・・この中で、レオナルド少年は自然と遊び、観察し、絵を描き始めたのでしょう。

そんなことを思っていたら、出発直前に聞いたグラフィックデザイナー原研哉さんの講演の一説を思い出しました。「知性と感性の融合した人物としてはレオナルド・ダ・ヴィンチが居ます。彼は当然IQが高いとは思いますが、それと同時に絵画を描くスキル、その身体能力が極めて高いわけですよね。彼は高い知力と絵を描くというスキルを得ることによって、サイエンティストとしてのあらゆる知識を現代に伝えることができたのです。現在問題なのはダ・ヴィンチにように絵を描くスキルをもった人がいなくなったこと。これはすなわちダ・ヴィンチのような感性や能力も失なわれたということですね。だから、現在ではああいうものが描けなくなってしまったし、アウトプットも出せなくなってしまったと・・・そういうふうなことだと思います」。

そういえば、日本画家の千住博さんも、彼の代表作となった滝シリーズ『ウォーター・フォール』の誕生について、「あるとき、私は滝を描きました。自然の滝は水が上から下に流れるもの、・・・であれば絵の具を上から下に流してみる。これは芭蕉が言った「造化」に通じるのではないかと考えたのです。そして自然に流れた形そのものに美を見出していく。これこそが、技術と内容、言葉と心が一致する「花実相兼」ということなのではないか」と語っていらっしゃいました。

お二人は全く違った文脈の中で語っているわけですが、「思考や表現という行為において、身についた技術(スキルやテクニック)がいかに大切なのか再認識すべき」という点で共通しているように感じます。

そうこうしているうちにトスカーナの日没です。美しい夕焼けの映像は写真集やデジタル画像でいくらでも見ることができる現代です。しかし、東京-ローマを飛行機で約12時間、ローマ-フィレンツェが特急列車で約2時間半、フィレンツェ-ヴィンチ村クルマで90分、ヴィンチ村-生家徒歩で30分、自分の身体をこれだけのプロセスと時間をかけて移動させて来たからこそ、実感できる夕焼けの美しさです。思わず両手を伸ばして深呼吸・・・

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プレイスペースいろいろ

早いものでもう9月。楽しい夏休みも、もう終わりです。

トライプラスの仕事を始めてから、子どもに関するアレコレが気になる今日この頃ですが、7、8月は特に夏休みシーズンでもあり、子どもたちの遊びの環境が目につきました。そんな中、プレイスペースという視点で興味深い場所やプロジェクトに遭遇しましたので以下、ご紹介しましょう。

ソニー エクスプローラサイエンス

お台場のメディアージュ5階にあるソニー・エクスプローラサイエンスは「体験」と「発見」をキーコンセプトとするデジタルサイエンス・ミュージアム。最先端のデジタル技術、身近な科学原理をファンタジックな装置で、遊びながら体験できる仕組みです。会場全体は近未来の宇宙船を思わすようなハイテックなイメージでまとめられており、この異次元空間に身を置くだけでウキウキワクワクしてきます。エクスプローラサイエンス系ではサンフランシスコのミュージアムが有名ですが、サンフランシスコの施設はローテクな工場のような大雑把な造りが魅力的で、ソニーものとは対照的です。機会があれば是非行ってみてください。

さて、ソニー・エクスプローラサイエンスの魅力は施設の斬新さだけでありません。ここでは「デジタル・ドリーム・キッズ実験室」という企画があって、電池や紐といった身の回りにある日常品を使った科学実験や体験教室などのさまざまなイベントが開催されています。専門のインストラクターも居て、この実験には、子どもだけなく大人もはまってしまいます。

日本にはソニーに限らず、世界一の技術力を誇る会社がたくさんあります。そうした技術を応用した「遊びながら勉強ができる」「体験が発見につながる」そんなサイエンスミュージアムやプレイスペースがもっとたくさんできれば、子どもたちの理数離れの拡大もすこしは小さく出来るかも?

・ボーネルンド あそびのせかい

2つ目は横浜みなとみらい地区にこの夏オープンしたボーネルンドの「あそびのせかい」。ボーネルンドは本コラム「8人のクリエイターによる遊びの提案」でもご紹介した世界中の優れたトイを輸入販売している会社です。・・・が一方で、公園や児童施設などの遊び環境作りでも多くの実績をもっています。ここはフラッグシップとなるショップの他に、「KID-O-KID(キドキド)」というプレイコーナー、英会話教室などが開かれるクラスルームが併設された室内プレイランドで、「こころ・頭・からだがあそぶ」をモットーとした新しい遊び場のかたちが具現化されています。特にキドキドは、デンマークで研究開発された新体育理論をベースとするさまざまな大型遊具がレイアウトされており、遊びのインストラクターが見守る中、子どもたちは何の気兼ねもなく心、頭、体を使いながら思いっきり遊ぶことができます。スペース全体が赤、黄、緑といったビビッドな色使いでデザインされており、子どもの遊びたい気持ちを大いに盛り上げています。

ここで注目すべきは、そのオペレーションです。遊びのインストラクターを配することで、子どもたちは次々に新しい遊びを発見するチャンスを与えられ、遊びの可能性を広げならが、満足感を味わうことができるのです。

OZONE 建築家が提案するキッズコーナー展

近年恒例となっている新宿OZONEの企画「おやこでたのしむOZONEのなつやすみ」では、複数の企画がある中、リビングデザインギャラリーの「建築家が提案するキッズコーナー」展は、興味深い提案がありました。本展は展覧会といっても、実際はプレイコーナーのように遊ぶこともできる仕掛けになっており、会場全体は、ダンボールを使ったオブジェ(ランドスケープのようであり、都市空間の一部のようでもあり・・・)が組み立てられていて、そこにBRIO社(スウェーデン)の木製レールウェイのトイが配置されていました。壁の一部が黒板になっており、子どもたちの「落書きしたい気持ち」が思いっきり発散できるような会場デザインです。「子どもは日々成長していて、興味の対象もどんどん変わっていく。だから、ダンボールのような手軽でラフな素材を使って、親子でプレイスペースを作ったり改造したりする・・・そんな遊び方や場所があっても良いのではないか」。相澤久美さんと遠藤幹子さんによる会場デザインは、そんな提案をしたいのではないかと感じました。

さて、ソニーエクスプローラサイエンス、ボーネルンドのあそびのせかい、OZONEの展覧会と、その目的や環境デザインの方向性は三者三様ですが、共通点といえば「人的オペレーション」ということでしょうか。玩具や公園がなくても、いくらでも楽しい遊び方はあるわけです。でも、「遊びの芽」に気付き、「遊びの可能性」を育てていくためには、ある程度の遊びに対する基本知識が必要です。多分1960年代くらいまでは、さまざまな年代の子どもたちが一緒に遊びながら、遊びの基礎知識が伝授され、遊びの知恵が継承されていたのでしょう。けれどもそのつながりがなくなってしまった今では、遊びの動機付けは、やはり親やインストラクターなど「人」が介在することが不可欠なのでしょう。

●ソニー・エクスプローラサイエンス

●ボーネルンドあそびのせかい  横浜市西区みなとみらい4-6-5 リーフみなとみらい3階

電話:045-650-1231

※キドキドは有料、現地での予約制です。

●「建築家が提案するキッズコーナー」展  ※8月31日で終了しています。

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明朝時代のアンティーク空間で、100モノのプーアール茶を飲む

7月中旬、猛暑の上海を訪問しました。上海市は電力不足のために気温が35度以上になると、観光名所であるバンド地区のライトアップが中止になってしまうそうで、それを目当てに来た観光客にはちょっと寂しい季節でもあります。

それならばということで、話題のスポット准海中路から復興中路あたり(昔のフランス租界の洋館を改装したレストランやショップが軒を連ねるエリア)で食事をしようとプラプラ歩いていました。

すると暗闇から「関さんじゃありませんか!!」という中国訛りで話しかけてくる人物に遭遇。その人は以前この「ヤスコの部屋」でご紹介した、上海で活躍するアーティスト+グラフィックデザイナーの張少俊さんではありませんか!

彼は「1400万人も住んでいるこの巨大都市上海で偶然に出会うなんて、私たち二人は強い運で結ばれています」と言い、私も余りの偶然に「運命か!」と思わず納得してしまったのでした。お互い連れがいたにも関わらず、「この近くにオープンしたばかりのすばらしい喫茶店があるので一緒に行きましょう」という誘いに乗って、歩いて30メートルほどのところにあった広い庭園を持つ一軒家の瀟洒な店に入りました。

ここは張さんの友人である郭さんが経営するプーアール茶専門の喫茶店「故園」でありました。郭さん一族は唐の時代から続く名門だそうで、ご自身は明朝時代のアンティーク家具の収集家として有名な人物。その貴重なアンティーク家具を生かせるビジネスをということで、復興中路界隈(東京で言えば青山といった地域)の洋館を大々的に改装し、さらに明朝時代の小民具、家具を中心にインテリアをまとめた喫茶店をこの春に開業したそうです。

店に入るとそこは異空間。最近の上海はグランドハイアットやテレビ塔が立ち並ぶ浦東地区、世界の最先端を行く未来的な部分が強調されていましたが、すでに温故知新をコンセプトとしたクリエーションが多く登場してきています。この故園はまさにその象徴となるカフェでしょう。

張さんは店に入るなり、二階の一番奥にあるオーナー専用ルームに直行。そこでは郭さんが、元卓球世界チャンピオンやアーティストなどのお客さまを招いて100年もののプーアール茶を振舞っていました。張さんはそんなことに構わず、「東京からすばらしいお客様が来ましたので、ご紹介します!!」と言いながら、私たちを勝手に着席させてしまったのでした。郭さんは予期せぬ訪問者にも貴重な100年ものプーアール茶とおいしい中国菓子で歓迎してくれたのでした。

最近は日本でも中国茶ブーム。一昔前にはウーロン茶かジャスミン茶くらいしか知られていなかったにも関わらず、最近は中国緑茶、鉄観音茶、またダイエットに効果絶大というプーアール茶他、多種多様なお茶を楽しめるようになりました。同時に中国式喫茶文化も注目されるようになり、独特の道具なども紹介されるようになっています。日本の、特に煎茶道はこの中国式の喫茶作法に強く影響を受けているんでしょうね。道具やマナーが驚くほど似ています。

ここ故園は主にプーアール茶を扱っていますが、郭さんによれば「プーアール茶は寝る前に飲むと体が温まり、安眠を促します。もちろん新陳代謝を高めますから美容茶でもあります」と、突然の客にもにこやかに説明をしてくれます。私たちはといえば、100年物のプーアール茶を頂ける機会などめったにないと、ただただガブ飲み。そのお礼といっては何ですが、このコラムでご紹介させていただくことにしたわけです。

さて、デザインについて書かなければなりませんね。中国のアンティーク家具は全く知識ゼロの私なので、張さんにその特徴を尋ねてみました。「明朝時代の家具の大きな特徴は素朴な力強さです。清調時代になると繊細な細工を施した家具や民具が多く作られるようになりますが、明朝時代は素材を余り加工しない素朴で力強いものが多いのです。でもそのシンプルさがかえって現代に通じます」とコメント。郭さんは、この空間でプーアール茶倶楽部なるコミュニティを主宰していて、「ここが上海の文化の拠点になってくれると嬉しいです」と考えているそうです。

今回は上海カフェ紹介になってしまいましたが、上海を訪れた際には是非是非、足を運んで、中国式喫茶を堪能してください。簡単な軽食も楽しめます。但し、100年ものプーアール茶をいただくには、張さんという強力な友人が必要です。

故園のアドレスと電話番号は下記の通りです。HPはまだありません。
No.1315 Fuxing Road  Tel.86-21-6445-4625

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もっと知りたくありませんか?
地球温暖化キーワード集を編集しました

この「ヤスコの部屋」、更新が不規則でごめんなさい。そして毎回、私が手掛けた仕事や身の回りの出来事の話が多いのですが、今回は最近完成させた印刷物についてです。

デザインや建築にとって、もはや「環境」というテーマは無視できませんし、新聞やニュース番組でも地球温暖化やエネルギー問題が語られないことはまずありません。けれども、こうした報道には専門用語が多く使われていていると同時に、環境という課題には広範な要件が含まれているために、一読しただけでは内容を把握することは困難です。そのために漠然とした不安を抱いたり、特定の課題に対して過剰に反応してしまったりする危険性を含んでいます。環境に関する報道の中では、例えば「ISO14001」「京都議定書」「JI」「LCA」「水素エネルギー」「バイオマス」「グリーンコンシューマ」「ゼロ・エミッション」「サスティナブル社会」「SOx/NOx」といった言葉が度々登場してきますが、読者の皆さんは、これらの用語をご存知ですか?

さて、今回ご紹介するのは『もっと知りたい地球温暖化キーワード A to Z』という小冊子です。発行元は社団法人日本鉄鋼連盟という、新日本製鉄をはじめ日本の製鉄会社が名を連ねる(お固そうな?)組織です。製鉄会社というと(当初は私もそうでしたが・・・)、日本の高度経済成長を支えた重厚長大の代表のような業種だと思っていました(実際に鉄を作る高炉などはまさに巨大な装置でありますが)。しかし、この冊子編集に携わることによって、「製鉄業界=環境産業」を目指して涙ぐましい企業努力をしていることを知りました。例えば、こんなことです。鉄鋼製造は鉄鉱石を2000度以上の高温で溶かすことが基本。この高温技術を応用することによって、今まで廃棄処理に困っていたプラスチック製品を燃料として活用するだけでなく、軽油やタールなどの化学原料に再生しています。このシステムを開発した新日鉄は2002年度のグッドデザイン賞金賞を受賞しています。

総じて日本企業は環境対策に前向きで、「ISO14001」(=地球環境に配慮した活動に与えられる国際規格)の取得件数は、第二位のドイツの 3,700件を大きく上回る10,620件(国際標準化機構2002年度12月現在)というものです。これだけ取得するためには、技術開発はもちろん合理的な製品設計やデザインも重要な要因を占めているのでしょう。

・・・ちょっと前置きが長くなってしまいました。小冊子『もっと知りたい地球温暖化キーワード A to Z』は、日本鉄鋼連盟がこうした企業努力を生活者に分かりやすく伝えたいという目的で、代表的な環境用語AからZまでの38ワードを厳選して、その意味やバックグランドを解説しています。もちろん豊富なデータやグラフも併記されており、これらはインフォグラフィックスで高く評価されている中川憲造さん率いるNDCグラフィックスが特別に制作してくれています。地球環境の現在のトレンドを手早く知りたいという方は是非ご一読ください。

日本鉄鋼連盟 HP

冊子のお申し込みは”こちら”

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8人のクリエイターによる遊びの提案  その2

「8人のクリエイターが遊ぶ-CONSTRUCTION TOY-遊具展」の作品紹介の続きです。

今、大人たちの間でも話題になっているのが、磁石を使った遊具「マッドマグ」です。マッドマグは韓国のジムワールド社の遊具で、長短2種類のマグネットバーと金属ボールを自由に接続して、四角推や立方体などの基本形態が造形でき、さらにこれらを重ねていくことによって分子構造や複雑な構造物も作ることができるというものです。「マッドマグ」にチャレンジしてくれたのは、韓亜由美さん(ランドスケープアーキテクト)と山中俊治さん(インダストリアルデザイナー)のお2人。

韓さんは、「マッドマグは建築物や多面体などのしっかりした構造物を作るのに適した遊具だけれども、私はその性格を逆手にとって、布地やランドスープのような柔らかで有機的な曲線や曲面を作ってみたい」というアイデアから出発。試行錯誤の結果、30個のステンレスボックスの中に「菌が増殖するイメージ」を連続性ある造形物として創作。ステンレスボックスは鏡のような効果を作り、まるで万華鏡のような不思議で美しく、有機的なオブジェとなりました。

山中さんは、「日頃から最先端技術にどんな形や機能を持たせるか」という発想のデザインワークが多く、今回も「自己増殖するマッドマグ」をコンピュータソフトで再現、その完成形として円状のオブジェを制作してくれました。そのソフトは「Magrid」と名づけられ、まさに科学好きな大人たちの遊びのイマジネーションを限りなく広げてくれる提案でした。

最後の遊具はドイツのローレンツ社製の「ボーフィクス」。ネジ、ナット、穴あきボードなどの木製パーツで構成されていて、数種類ある穴あきボードにネジやナットを嵌め込んで、平面から立体へ、自由な発想で造形作りが楽しめるというもの。これに挑戦してくれたのが川上元美さん(プロダクトデザイナー)と日比野克彦さん(アーティスト)。

川上さんは独自に穴あきボードを制作し、そのボードをボルトとナットでジョイントして、おもちゃ箱を作ってくれました。「小さい頃、玩具を片付けなさいって、親から言われていました」という記憶から、遊具を使って玩具箱を作ってしまおうという斬新なアイデア。組み合わせ次第では、簡単な棚やテーブルも作ることができ、遊具が家具作りのパーツにもなるという、まさに大人が楽しめる遊びです。

日比野さんはアーティストらしく、自由な発想で数種類のオブジェを制作。但し、発想の根底には、ボーフィクスの同じパーツをある規則を持って組み合わせていくことで出来上がったオブジェは、見る側の視点によってさまざまなイメージとして捉えられるという、いかにもアーティストらしい試みでした。大人の遊びは「完成させること」「役立てること」といった意味性を求めてしまうのですが、本来の「遊び」とは目的のない、プロセスに没頭する行為ですから、日比野さんは遊具や遊びの本質にもっとも忠実であったのかもしれません。

子育て中の親に限らず、大人たちが身近に居る子どもたちとある時間を没頭して一緒に遊ぶこと。そんなときに素敵な遊具があれば遊びの時間をより充実したものにしてくれるに違いありません。「物より思い出」という広告コピーがありますが、本当にその通りだなあと思います。

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PHOTO : YASUKO SEKI

8人のクリエイターによる遊びの提案  その1

去る3月24日~4月19日までの1カ月弱、松屋銀座のデザインギャラリーで、「8人のクリエイターが遊ぶ-CONSTRUCTION TOY-遊具展」が開催されました。展覧会の趣旨は前回の記事をご参照ください。

さて、本展の企画は、日本のアート界、デザイン界の第一線で活躍している8人のクリエイターに、機能性+デザイン性に優れた4種類のコンストラクショントイ(組み立て遊具)の中から気に入ったものを1点選んでもらって、クリエイターならではの豊かな発想力と経験から、新しい遊び方を発見し提案してもらおうというものでした。そして、出てきたものは今まで遊具のイメージを大きく超えた遊び方でありオブジェで、大人でも楽しめる遊具の可能性を感じさせてくれるものでした。簡単にご紹介しましょう。

まず、「ハマビーズ」という遊具を選んだ五十嵐久枝さん(インテリアデザイナー)、永井一正さん(グラフィックデザイナー)、平田智彦さん(インダストリアルデザイナー)の作品から。

「ハマビーズ」はデンマーク、マルタハニング社の遊具で、カラフルな小さいビーズでさまざまな絵柄を描くことができます。遊び方としてはビーズをボードに嵌めて図柄を描いて、できたらビーズの表面にアイロンをかけて接着させるというもの。

五十嵐さんは、熱で溶けるとくっつくというビーズの性質を応用してまったく違った発想で遊んでくれました。カラフルなビーズをハートの形のケーキ型に入れてオーブンで焼いて、出来上がったハート型の箱に中に電球を入れて可愛らしい照明器具を作ってしまったのです。五十嵐さんによれば「お菓子を作る感覚で照明器具やリビングBOXなどが作れますよ」とのこと、一度親子でチャレンジしてみたい遊びです。

永井さんは子どもを対象とした展覧会ポスターの図柄をハマビーズで再現して、立体感のあるグラフィック表現にリデザイン。照明効果もあってビーズの鮮やかな色彩に陰影が加わった味わい深い作品となりました。

平田さんはビーズを使って大人の絵本作りに挑戦。図柄はデザイナーらしく名車フェラーリをモティーフとしたもの。「ハマビーズを画材に見立てて、家族の思い出のアーカイブを作ってみては?」という提案が込められていました。

さて、「ジョボ・ブロック」を選んだのは佐藤可士和さん(アートディレクター)。

「ジョボ・ブロック」はデンマーク、ジョボインターナショナル社の遊具。カラフルな色彩の三角形・四角形・五角形の3種類のパーツがあり、これらをパッケージの展開図を思い浮かべながら組み立てていくと平面からさまざまな立体物を作れることがこの遊具の魅力です。佐藤さんは、三角、四角、五角形というシンプルな形と美しい色彩のパーツを組み立てて、ランチョンマット、花瓶、コースター、ティッシュボックスなどのテーブルウェア作りを提案。遊具をリビング用品作りのパーツとして使うという発想です。子どもたちが集うパーティなどで、自ら作ったお皿やコースターにお菓子を盛り付ければ、パーティもよりいっそう盛り上がるでしょう。誰もが手軽にチャレンジできるすばらしい楽しみ方の提案でした。

次回、引き続き4人のクリエイターのご提案を紹介します。

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PHOTO : YASUKO SEKI

漢字とアートのコラボレーション

上海で活躍するアーティスト+グラフィックデザイナー+パオスネット・パートナーの張少俊さんが浅草のGallery ef(http://www.tctv.ne.jp/get2-ef/)で個展をしている。張さんを知ったのは約1年ほど前。私がお手伝いしている物学研究会(http://www.k-system.net/butsugaku/)で中国へデザイン視察旅行を企画した折に、中国側のアレンジをいろいろお手配いただいたのがきっかけだった。出会ったときはパオスネット上海の代表という肩書きでご紹介いただいた張さんだったのだけれど、その後、日本の多摩美術大学でグラフィックデザインを学んだデザイナーであり、同時に中国の伝統的な絵画や書をアレンジしたコンテンポラリーアートも手がける作家であることも知った。その張さんの個展が開かれるというので、年末でにぎやかな浅草まで出かけた。

展覧会のタイトルは「関係学」。「陰と陽、男と女、大と小、自然と人間、社会と個人・・・・・中略、世界はすべて関係で成り立っている」とDMには書かれている。会場である「Gallery ef」はユニークなスペース。カフェギャラリーといった感じで、展覧会場はカフェの奥に忽然と現れる「蔵」の中だ。入り口は高さ120センチほどなので、腰をかがめて入らなければならい。けれど入った瞬間、黒漆塗りの床に漆喰の壁、黒光りした梁でできたすばらしい空間の中に張さんの作品は展示されていた。展示されているというよりも空間の一部として溶け込んでしまっている。今回の展覧会で張さんは作品のコンセプトはもちろんのことだけれど、その材料にこだわった。用紙は中国安徽省の手漉きの紙で数百年は保存が利くそうだ。数ある作品の中で特に気に入ったのが写真のもの。反物のような細長い紙の上に、まるで一筆書きのような力強いタッチの墨絵だ。一瞬見ると「書」のようだが、よく見ると絵巻物のように森羅万象が描かれている。日本の絵巻は横に流れるけれど、張さんの作品は上から下へ縦に流れている。張さんによると「漢字はもともと絵文字(表意文字)なので、字とも絵とも言いがたい微妙な領域を表現できる」のだそうだ。これも展覧会のテーマである「関係学」そのものといえるだろう。

張さんの作品と同時に印象に残ったことがあった。浅草という下町にカフェと蔵(ギャラリー)が合体した不思議な場所があり、そこに東京に暮らす様々な人々が集っている。今回は張さんの個展のオープニングということもあり、カフェには中国語、日本語、英語など様々な言語が飛び交っている。六本木ヒルズや丸ビルもおもしろいけれど、普通のところにこんなスペースがたくさんできることも東京を魅力ある街にしてくれる原動力になっているのだろう。

下記、1月18日まで開催しております張少俊さんの展覧会案内となります。

張少俊 絵画展 “関係學 -guan xi xue” 墨絵

・期日: 開催中~ 2004年1月18日(日)
・時間: 11:00~19:00 ※火曜休廊
・会場: ギャラリー・エフ
東京都台東区雷門2-19-18 tel.03-3841-0442

http://www.tctv.ne.jp/get2-ef/

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フランス建築からデザインのDNAを考える

今回の旅の目的――前半はフランス近代住宅を見るというもの。有名なものではシャローのガラスの家(パリ)、コルビュジエのペイックの住宅(ボルドー)と母の家(スイス)、プルーヴェのナンシーの家(ナンシー)、コールハースのボルドーの家などなど。後半はコルビュジエの建物にプラス、多くの建築家に影響を与えたといわれているプロヴァンスのル・トロネ修道院を訪問することでした。この修道院はエクスアン・プロバンス市内からクルマで90分ほどのル・トロネ村からさらに10分ほど山道を走ったところにある12世紀頃建造されたシトー派の修道院です。

この修道院が多くの人を引きつける理由は、レリーフや壁画、ステンドグラスといった教会お決まりの装飾を一切排除した究極の純粋空間です。その純粋さが、光と影、静寂と自然の音(鳥のさえずり、風のそよぎ)、光による暖と影の涼などなど、人の身体感覚を研ぎ澄まさせて日頃は感知することができない四次元の世界を体感させてくれるところにあるのでしょう。修道院はファサードから教会、集会場、回廊(これが特に有名)、ワインやオリーブを製造していたセラーなど、当時の佇まいを残しています。一時期は廃れていたものを19世紀後半から修復と改築工事は行われ、現在はベツレヘムからやってきた尼僧が暮らし、日々の宗教行事を取り仕切っています。

そして、かつてラ・トゥーレット修道院の設計を任されたル・コルビュジエもこの修道院を訪れたそうです。ル・トロネ修道院はプロヴァンス産の赤みがかった粗い石を、ラ・トゥーレットは粗いコンクリートと、それぞれ時代に沿った異なる材料を使いながら、素材のもつ圧倒的な重量感、純粋形態がもたらす力強さ、そして光と影がもたらす陰翳、そして静けさ……。ここに時代や様式を超えて生き続ける空間デザインの遺伝子を感じてしまうのは、私だけではないでしょう。そしてこの系譜は「光の教会」など、常に建築の光と影を追い求めている安藤忠雄さんの建築までに及んでいるのではないでしょか。

……とは言え、今やプロバンスの三姉妹(セナンク修道院、シルヴァカンヌ修道院)と称えられ、この地方の一大観光スポットとなったル・トロネ修道院で静寂を得るためには、相当強い意思とイマジネーションを必要とします。たまたま訪れた日が日曜であったのがまずかったのかもしれません。次に訪れることがあれば、普通の日、冬あたりが良いかも。

建築は時間によってその表情を変えるもの。駆け足ではなく、最低1日は時間を取る――本当はそんな訪問が理想的なのだと痛感した旅でした。

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