子どもの建築教育

伊東豊雄さんが4年前に始めた伊東建築塾。その活動の柱の一本が子ども建築塾だ。小学高学年を中心とした子どもたち20数名が、伊東塾長をはじめ、東大教授の村松伸さん、同じく東大講師太田浩史さんさん、東大博士課程の田口純子さんといった先生方の指導の下、いろいろな空間を体験し、建築的思考を学ぶための場。そんな塾の軌跡を1冊にまとめた『伊東豊雄 子ども建築塾』(LIXIL出版)が刊行された。表紙でドカーンとほほ笑む伊東さんのイラストは小学5年生(当時)の塾生が描いたもの。

私は子ども子ども関係の仕事もしていることから、オブザーバーというかたちで塾が始まって以来、卒業発表会や町調査に参加させていただいていた。そんな経緯もあって、本書では伊東さんへのインタビューアを務めさせていただいた。インタビューの中で伊東さんは「今の日本では個人の感受性を育むことはしないで、凡庸な均質主義に陥ってしまっている。このような社会では議論も起こらないし、新しいものを生み出すエネルギーも出てこない。僕はこの状態を何とかしないと、と考えていて、子どもの直観力はその突破口になるんじゃないかと思っています。・・・」と語っておられる。子育てに疑問を感じている方はもちろん、子どもって何、学ぶって何???と感じている方にぜひ読んでいただきたい一冊です。

伊東表紙画像

LIXIL出版 ¥2,300+税

 

青山に折り紙の花が咲く

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2月12日、東京の表参道、ISSEY MIYAKE本店で折り紙の花々が満開に。作者はフランス人のマドモアゼル・モーリスさん。3.11発生時には日本に滞在したいたという日本大好きアーティスト。広島の千羽鶴に触発されて、最近は折り紙を絵具のように使いこなし、都市空間に多彩なインスタレーションを展開している。

今回は、ロードゥ イッセイの新フレグランス「シティ・ブロッサム」の発売を記念し、ライブ・インスタレーションとトークショーのために来日。私がトークショーのお相手を務めることになり、打ち合わせも含めて何度かお話しする機会をいただいた。モーリスさんは物静かな人。インスタレーションという偶然性の強い作品だが、しっかりプランを練って、下準備も怠りない。フランスから膨大な量の折り紙を持参していた。そして限られた時間内で、何千という折り紙の花を咲かせていくという粘りと気力のいる作業をしっかりと仕上げてみせた。まだまだ寒さが厳しい2月中旬、モーリスさんのインスタレーションが施された一角だけはピンク色の花々が満開で、道行く人に一足早い春の訪れを感じさせた。

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フランスから持ち込まれた折り紙の材料

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壁面に一つずつ手作業で張り付けられていく

PHOTOS/YASUKO SEKI

 

 

 

 

第14回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展 その5 場外編

ベネチアの地図を片手に関連イベントを巡ってみよう。IMG_0042

ベネチア・ビエンナーレ国際建築展の開催中には、ベネチアの街のあちらこちらで関連イベントが催されており、地図を片手に迷宮都市を散策するのも楽しみの一つだ。これらはジャルディーニやアルセナーレにパビリオンを持っていない国々建築家のグループ、あるいは有志たちが市内のパラッツォやミュージアムを借りて、独自に企画されたものだ。幾つかご紹介しよう。

市内の2カ所に分かれて開催された「time space existence」は、ともに古いパラッツォを会場に若手クリエイターたちが思い思いのインスタレーションを展開。とくに会場の一つであるパラッツォ・モラは現在改装中なのだろうか、その工事現場のような光景や窓という額縁に切り取られたベネチアの風景の方が、著者にはtime space existenceに感じられた。作品にかける若手の意気込みには共感するが、ホワイトキューブではないこうした歴史的環境の中で作品を発表するのは、よほどの覚悟と空間の読み取りが必要だと感じる。

R0013388パラッツォ内での展示。

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R0013377数ある中で空間をきれいに使っているインスタレーション 上 アートのような改装中の部屋 下

大運河に面したパラッツォを会場とした「made in europe」は、100年間のヨーロッパ建築を徹底的に分析してみせた力作だが、なにしろボリュームがありすぎて消化しきれない。膨大なデータ、とにかく集めに集められた建築模型たち。近代建築はヨーロッパを中心に誕生し、発展してきたことを実感するのみ。

R0013786奥の部屋にはヨーロッパ建築を数値化して分析したパネルが多数

各国館では、ニュージーランド館。建国以来、先住民であるマオリの人々の文化を尊重し、融合を目指してきたニューランドの文化の在り様を、「建築」というフィルターを通して分析している。そこには近代建築にマオリの木の文化を取り入れようという努力の痕跡が見て取れる。

R0013772マオリの建物をモチーフにした展示

ニュージーランド展の近くでは「young architects in africa」と題し、アフリカ大陸で活動する若い建築家たちがプロジェクトを発表していた。興味深かったのは、彼らが手掛けているプロジェクトのユニークさ。貧困層のための住宅。貧しい村の集会場。子どもたちのための教育施設などなど、そこにあるのはまさにBOP(Base Of the Pyramid)のための建築だ。国籍を問わず、若い建築家たちが自らアフリカに乗り込んでBOPのためにプロジェクト立ち上げ、実践している。それらはまさに「近代性の吸収」を超えた、新しい建築の行方を示唆しているように感じた。

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R0013759 展示はシンプルだが、発表されているプロジェクトはどれも興味深い。まず感心するのは、地元の素材(あるものを)を上手に使っていこうという姿勢。

Photos YASUKO SEKI

 

第14回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展 その4 近代性の吸収 1941~2014

 

R0013187現代の巨大クルーズ船がベネチアの街を飲み込む?

「近代性の吸収1941~2014」は、65カ国が参加する各国館共通のテーマだ。各国館はジャルディーニとアルセナーレの2カ所に分散している。ジャルディーニのメインストリートには、フランス、イギリス、ドイツ、アメリカ、北欧など西欧諸国のパビリオンが軒を連ねる中、日本館もある。通常、各国館はそれぞれ独自にテーマを決めて展覧会を制作する。共通テーマが与えられることは異例なことで、これだけでもコールハースの思い入れの大きさを理解できる。

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日本館は、コールハースと数々のプロジェクトを実現させた経歴をもつ、展覧会オーガナイザー、編集者の太田佳代子さんがコミッショナーを務め、早稲田大学教授の中西礼仁さんをディレクターとしたチームで、「In the Real World: 現実のはなし~日本建築の倉から~」と題し、主に70年代の建築をテーマとした展示をおこなった。たとえば、安藤忠雄の住吉の長屋、毛綱毅曠の反住器、伊東豊雄のアルミの家などの建築模型など、藤森照信の建築探偵団、真壁智治のアーバン・フロッタージュ、一木努の建築のカケラのコレクション、その他、70年代の建築メディア、70年代を象徴する建築物の図面などが、まるで倉から掘り起こされたように、一見無造作に展示されている。

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R001348470年代の建築の掘り出し物が 上   図面は有料で紙焼きしてくれる  下

1階のピロティでは、石山和美監督による映画の上映とともに、ワークショップやシンポジウムなどのプログラムが用意され、情報のアップデートが図られる予定だ。現在日本の建築は世界的にも大きな影響力を持っている。その源泉を70年代の建築プロジェクトに探ろうという意欲的な内容だった。実際、日本建築の源流を知りたいという建築関係者、ファンで会場がごった返してた。

R00134751階ではさまざまなイベントが計画されている、丸太の椅子は前回の日本館の置き土産。 下

さて、注目の金獅子賞は日本館のお隣の韓国館が受賞。テーマは「コリアン・ペニンシュラ」。現在南北に分裂している朝鮮半島の建築の100年を振り返るもので、政治的な意味合いも強い。しかしながら同じ民族が分断されているという悲劇的な状況は、建築というフィルターを通してもはっきりを伝わってくる。続く、銀獅子賞は南米チリ。戦後、欧米式の集合住宅の拡大を、プレキャストコンクリートという大量生産を保証する建築工法をテーマに分析している。真っ赤な照明に照らされた空間での展示は、建築の近代性のもつ暴力性を感じさせた。

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R0013351日本館に隣接する韓国館 上  赤い照明が印象的なチリ館は銀獅子賞

最近のビエンナーレは、前回の金獅子賞は伊東豊雄がコミッショナーを務めた日本館、前々回は日本の建築家、石上純也氏が受賞するなど、日本を先頭にした非西洋諸国の台頭が目覚ましい。1914~2014年の100年間の建築においては、世界中が西欧で誕生した近代性を吸収してきた。今後は、グローバルな近代性とローカルな伝統や文化の血が混ざることによって誕生するだろう建築の行方に注目したい。

Photos YASUKO SEKI

 

 

 

「楽園としての芸術」展ーArt as a Heven of Happiness

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10月8日まで東京都美術館で開催される「楽園としての芸術」展(~10月8日まで)のプレビューに行った。本展は最近話題のアウトサイダーアートの一領域として注目されているダウン症の人々の作品展。三重県と東京に拠点を置く「アトリエ・エレマン・プレザン」と鹿児島の「しょうぶ学園」で制作された絵画、立体、生活用品などなど、見ごたえのある作品が展示されている。本展のパンフレットには「制作を通じて心が解き放たれ、その結果生まれたものが、また人の心を揺り動かすという奇跡のようなつながり・・・」と記されているが、まさにその通り。

何より、彼らの作品は、現代人(とくに表現者)をがんじがらめにしている「自我」や「自己主張」から解き放たれた清々しさに溢れている。それはラスコー洞窟に描かれた動物たち、アボリジーの人々が描くパターン図であったり、フランスの郵便配達人が30年以上かけて作り上げたシュヴァルの理想宮、江戸時代の僧円空が彫り続けた仏像にも通じる、無心の表現であり、創造という行為を凝縮している。たとえば色彩の透明感、タッチの軽妙さなど、迷いや逡巡がなく、その純粋さに思わず一歩引いてしまうほどだ。

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けれども、表現の世界で大きな可能性を秘めているダウン症の人々が置かれている状況は、決して良いものではない。今回のような多くの理解者や協力者に恵まれ、アートという自己表現の手段を持ち活動できている人々はほんの一握りだろう。実際、親や兄弟の支えがなければ普通に生活することもままならないのが現状だ。また、新型出生前診断の普及によって、さまざまな出産リスクが事前にわかるようになった結果、「命の選別」などの新たな倫理問題も浮上しつつある。

彼らの作品が社会のしがらみや煩わしささから一線を画している「楽園」であるからこそ、それをいかにして守り、育んでいけるのか・・・そんなことを考えずにはいられない。ヨーロッパ、とくにドイツやイギリスには、シュタイナーの思想から発生したキャンプヒルという活動がある。シュタイナー教材である楽器や遊具の生産などを軸に、精神的不安を持った人とサポートする人々がコミュニティを形成し、永続的に安定した生活を保障する社会活動だ。アトリエ・エレマン・プレゼンが掲げる「ダウンズ・タウン」構想(写真下)が実現されることを願いたい。

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無題

 

Photos/ YASUKO SEKI

 

 

日本一美しい島、大三島の美術館

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伊東建築塾の企画にのって友人3人といざ四国の今治へ。日本屈指の絶景しまなみ海道沿いの大三島で、伊東豊雄建築ミュージアム、岩田健母と子のミュージアムなどを訪ねた。前日7月26日は、丹下健三設計の今治市民会館で開かれた日本文化研究家のアレックス・カーさんと伊東さんのセッションに参加。アレックスさんが長年取り組んでいる日本の民家や風景の再生プロジェクトや、伊東さんの大三島への想いを伺っていたせいか、いろいろな視点から島を見ることができた。

大三島は全国の三島神社の総本社の山祇神社(大山祇神社)があって観光客も多いらしい。最近では、伊東建築ミュージアムなど瀬戸内の自然と調和した小規模な美術館もオープンし、しまなみルートの重要な観光島になっているようだ。昔は、この辺りは瀬戸内の海賊や水軍の拠点も多く比較的裕福だったのだろう、どの家も瓦葺の屋根の立派な建物で、村の佇まいも美しい。開館3年目を迎えた伊東豊雄建築ミュージアムでは、現在「日本一美しい島・大三島をつくろうプロジェクト」が進行していて、メンバーによる島のリサーチ結果がパネルや模型、映像でプレゼンされていて見ごたえがある。さらに、宗方地区の浜辺の近くにある岩田健母と子のミュージアム(伊東さんの設計)は、ただ円形の壁だけというシンプルなコンセプトながら、、岩田さんの彫刻はもちろんのこと大三島の美しさをしみじみと鑑賞させてくれる額縁のような建物で、建築というよりも大きな環境彫刻のようだ。自然に寄り添った感じがいい。

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DSCN1419伊東豊雄建築ミュージアム展示 上 岩田健母と子のミュージアム 下

今治を後にした私たちは友人お勧めの高知のオーベルジュに向かった。高知市内から谷川に沿って山道を40分ばかり進むと、都会人にとってはショッキングな光景が飛び込んできた。それは谷川に今にも崩れ落ちそうな家屋群。そして廃線になってしまったバス停の看板。これを限界集落というのだろうか? 人の気配はない。このような山奥でバスも通らなければ、どうやって生活していくのだろうか? 病気になったら? 台風が直撃したら? 総務省が7月29日に発表した空家率の全国平均は13.5%。アレックスさんの取り組み、伊東さんの大三島プロジェクト、そして全国的な限界集落問題・・・・・・新築至上主義だった日本の土木や建築の在り方も大きな岐路を迎えている・・・。

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・・・と少しまじめなことを考えていたら、友人が高知市内の「ひろめ市場」に連れて行ってくれた。昼間からカツオのたたきをつまみに、陽気にビールや酒を楽しむ人々。彼らに混ざって、こちらも乾杯!! たった3日間だったけれど、1週間にも感じれる充実した旅だった。

 

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DSCN1459ひろめ市場、日本的フードコート?

現在8月4日、四国地方は台風の影響で1000ミリ近い豪雨に見舞われたと報道されている。あの谷川沿いにあった限界集落はどうなっているのだろうか? 大雨のために道が寸断され、孤立してしまっている人々や村も多いだろう。一刻も早い天候の回復を祈るばかりだ。

 

Photos/YASUKO SEKI

 

第14回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展 その3 Monditalia

R0013318元造船所のアルセナーレは空間そのものがまさにアート

Monditaliaは、ジャルディーニから徒歩10分ほど、元造船場という広大な建物を使ったアルセナーレで開催されている。こちらもコールハース自らがディレクションし、西洋建築の宝庫であるイタリアの建築・都市が抱える問題を浮き彫りにすることで、今日の建築が置かれている状況を把握しようというものだ。ここではさらに建築ビエンナーレ初の実験的な企画も試みられている。

R0013320 会場には休憩スペースも。

きらびやかなルミナリエに飾られた華麗な入り口を入ると、会場は動線に沿って、ナポリ、ローマ、フィレンツェ、エミリオ・ロマーニャ、ミラノ、アルプスといったように、イタリアの各地域を南から北上するというコンセプトで構成されている。各ゾーンはイタリアの古地図が印刷された半透明の布で仕切られ、その表側にはさまざまな展示が、裏側には各地域を舞台とした名作映画が投影される。(たとえば、南イタリアのゾーンでは、ナポリ湾に浮かぶカプリ島のヴィラ・マルパルテを舞台としたジャン=リュック・ゴダール監督の『軽蔑』などが投影されていたりする)。加えて、ゾーンの間には大小さまざまな仮設スタジオが設置されており、同時多発的にダンス、コンサート、ワークショップなど、多彩なパフォーマンスも実演される。筆者の見学中にもダンスや演劇のワークショップなどが複数実演されていた。それらの演目も何らかのかたちでイタリアの建築や都市とかかわりがあるのだろうか。

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R0013215Monditaliaのエントランス 上  展示と並行して上映される映画 下

さて、コールハースによるイタリアを分析するプロジェクトは41にもおよび、移民、再開発、乱開発、農業問題、都市化といった今日的な建築・都市問題を丁寧に掘り起こしながら、それぞれ工夫の施されたプレゼンとなっている。アルセナーレは、41にも及ぶ展示、その背景となる名作映画、そしてパフォーミングアートと、まさにコンテンツのてんこ盛り状態で、きちんと観ようと思うと丸1日でも足りないだろう。人間の情報処理能力にも限界があって、押し寄せてくる知識と情報の洪水のすべてを受容できないことが悲しい。

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R0013285 会場内で実演されるパフォーマンス 上、移民をテーマにした展示 中2点、ラディカル・ペタゴニーと題されたプロジェクト 下

3時間ほどMonditaliaの洗練を受けて外に出て感じたことは、願わくば、ここに集積された莫大な量のアーカイブを本展終了後も、イタリアのどこかに、Monditalia Museumとして残してほしい。あるいはウェッブか書籍か…。コールハースのことだから、この辺も抜かりないと思うけど・・・。

Photos YASUKO SEKI

 

シュタイナー教育の片鱗に触れる

台風8号が接近する7月8日、シュタイナー教材の輸入販売をしている「おもちゃ箱」が主催するワークショップに参加。午前中は、蜜ろうクレヨンや粘土、水彩絵の具で知られるドイツ・シュットクマー社のピーター・ビシュッタ氏、続いてシロフォンで知られるスウェーデン・マリウス社のシエル・アンダーソン氏のレクチャー。午後は複数のグループに分かれて、水彩、蜜ろう粘土、フェルト工芸、音楽などのワークショップ・プログラムに参加した。

シュトックマー社は「人間は感覚を通して自分を取り巻く世界と関わっている」という認識から、「感覚を磨く」ための道具として、絵の具や蜜ろう粘土などのアート教材を作り続けている。とくに注目したいのは「色」の選定だ。ベースは『ファウスト』の作者として知られるドイツの文学者ゲーテが考案した色彩論「色彩環」を基本にしている。色彩環とは、赤・青・黄の3原色が赤を頂点とした正三角形状に配され、その隙間を赤ー黄、黄色ー青、青ー赤がまじりあう色、つまり順に、橙、緑、紫の3色が緑頂点に逆三角形を作り、その間にさらを6色が埋めていくというもので、現在の色彩論の基にもなった。同社は、子どもたちに対して、まず基本色である3色を置き、その3色から生まれる豊かな色彩の世界の体験を重視している。

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ゲーテの色彩環 上  ワークショップで使った色彩サンプル 中 筆者の作品 下

午後のワークショップではビシュッタ氏がファシリテイターを務め、明暗の違う、赤、黄、緑の6色を使って、大地に生える木を描く。用紙に透明感のある6色の水彩絵の具を置き混じり合わせていくと、豊かな色のシンフォニーを奏でてくれた。絵を好き勝手に描くことも楽しいが、このような実験的な体験もたくさんの発見があって楽しいものだ。

DSCN1397 マイルス社のアンダーソン氏。

シュタイナー教材では、絵具なのどビジュアルアートの教材も充実しているが、シロフォン、ライヤーやキンダーハープなどの楽器も充実している。これらは単独の演奏ももちろん楽しめるが、今回のワークショップでは数人が同時に演奏し合い、互いに共鳴・共感することによって、音楽の可能性を体感する実践も行った。ワークショップを通して感じたことは、人間に備わった感覚(シュタイナーは人間には12の感覚があるといった)で感じ、感じたことを表現すること、その作品を共有することの素晴らしさ。これは子どもだけでなく、現代の大人に対しても大切なメッセージを発してくれているということだった。

Photos/ YASUKO SEKI

 

 

 

第14回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展 その2 建築要素

今回は総合テーマ「ファンダメンタルズ」に加えて、「エレメント・オブ・アーキテクチュア(建築要素)」、「Monditalia」、「近代性の吸収:1914~2014」の3つのお題も提示された。番外編も含めて4回に分けてご紹介しよう。

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「建築要素」は、ジャルディーニのメインエントランスの正面にあるテーマ館が舞台。古今東西から、ドア、床、窓、屋根、扉、外壁、便器といった建築要素が圧倒的な質量で収集され、あるものは解体され、またあるものは貼り付けにされ、またあるものはガラスケースに陳列されといった具合に、これまた斬新な手法で展示されている。内容ももちろんだが、展示デザインとして見るだけでも刺激的だ

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R0013177       床のからベランダのゾーンを見る 上      外壁のゾーン 中        ドアノブのゲート 下

屋根のゾーンには、中国やインドネシアなどの特徴的な屋根に加え、2020年東京オリンピックのために造られる新国立競技場の設計で話題を集める建築家、ザハ・ハディドが世界中にばらまいている3Dデザインによる屋根の模型もガラスケースに鎮座している。新国立競技場では「東京の景観を壊す」、「スケールが大きすぎる」、「競輪用のヘルメットのようだ!」などといろいろ形容されている。7月5日には反対のデモ行進もあった。(詳細は「国立さんを囲む会」)

これらの模型を見る限り、確かにザハさんは、歴史風土とか、土地柄とか、現地の人々の生活などには、ほとんど関心がないようだ。それよりも3Dが生み出す今まで見たことのなかったような斬新な造形を、最先端のテクノロジーで実現することに興味があるのだろうなあと感じる。それを置く場所はローマでも、東京でも、ドバイでも、北京でもどこでもよくて、まるで世界中にばらまかれる工業製品や、マクドナルドのようなグローバルブランドのデザインのよう。ザハというロゴマークが貼り付けられたブランド建築だ。それが彼女のアプローチなのだから、良いとか悪いとかの問題ではない。むしろ、そうした性質の建築家をチョイスした側のスタンスが問われるべきだなんだろう。

R0013174左側が新国立競技場

それにしても、人間が生み出してきた「建築要素」の質量はすごい。最近話題の3Dのイメージングやコピー技術によって、建築要素の差別化、多様化はもっともっと進むだろう。けれどもどんなにデザインが多様になろうとも、建築要素の本質はドア、床、窓、屋根、扉、外壁、便器など少しも変っていない。一長一短では進化できない人の身体や感覚を無視することができないのだから・・・。テーマ館のエントランスには最初の一行は Architecture is a profession trained to put things together, not to take them apart. とある。

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Photos YASUKO SEKI

 

 

 

 

 

 

「国立さんを囲む会」に参加

DSCN12555月22日、国立競技場最後の見学会で。東京体育館と新宿の高層ビル群を臨む

7月5日(土)15:00。「国立さんを囲む会」に参加。http://kokuritsu.sakura.ne.jp/開催趣旨は「手をつないで五重の輪をつくって、国立競技場を囲もう。改修案を検討する前に、国立競技場を解体させない」。その日は雨が降ったり止んだり。出かけるのはおっくうだったが、集合時間の15時には薄日もさし、暑くも寒くもない「手をつないで五重の輪をつくる」のに適した天候となった。

集合場所の明治公園(国立競技場に隣接する公園)に行くと、すでに風船やプラカードを手にした人たちが集合。辺りを見渡すと、居る!居る!!知った人たちが。やはり建築関係者が多いが、霞が関の半原発デモに参加しているような社会的意識の高いシニアも多い。

DSCN1342    手づくりの横断幕も

「久しぶり! 来たんだ!」なんて、知り合いと話しているうちに行進が開始。私は偶然お会いした建築家のYKさんと一緒に歩き始める。国立競技場に沿った道を、警察官の監視の下でゆっくり行進し、4分の3周した辺りで隣の人と手をつなぐようにという指示が。両手をしっかりつなぎ、国立競技場を囲む輪の一部になる。実際には5重どころか1重にもならなかった。けれど、特に大々的なアナウンスをすることもなく、直前まで小雨が降っていたにもかかわらず、これだけの人が集まったのだから、多少なりともメッセージは発信できたのではないか? 最後は明治公園に戻って、手にした風船を大空に。

DSCN1353日本青年館も取り壊しが決まっている。

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DSCN1371風船の紐は80m前後に調整。新国立競技場の高さを実感。

気になったのは、(反原発デモもそうだけど)学生や20代の人たちが少ないこと。反原発や新国立競技場建設反対理由の一つは、「未来に負の遺産を残さない」がある。未来に負の遺産を残されてしまう(?)当人たちは、こうした問題をどう考えているのか。あるいはネットなどで議論されているのだろうか・・・と。デモをしても流れは変わらないかもしれない。が、自分の意思は何かのかたちで表現しておかないと。(でも、私自身も20代の頃は選挙もパスしていたかも・・・)。そこそこの楽しさが溢れた現在、政治や社会に意識が向かないのは仕方がないが、無関心すぎるのはコワイ。両者をつなぐフックが必要だ。

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当日配布されていたパンフレット

photos YASUKO SEKI